医師に診てもらい、私は記憶喪失と診断された。

 そのため、色々教えてもらったのだが、一つ驚いたことがある。

 何と、私と静蘭が同い年と言うことだ。

 本来の年齢ではなくサバ読んでいる年齢だが、ちょっぴり凹んでしまう。

 私ってそれほど老けて見えるのか、それとも静蘭が童顔過ぎるのか悩んでしまう。

 九歳にして老け顔なんて……いや、でも、パッと見、九歳には見えなかった。

 もっと下に見えたんだけど。

 あ、そう言えば、私が『紅』のときも実年齢よりも下に見えたような。

 妹と並んでいると哀しいことに姉妹には見られないが、絶対に私が年下に思われていた。

 妹で思い出したが、今の私『星』の母親の星は、知っている子だった。

 子って言い方はおかしいかもしれないけど、彼女の母親は私の侍女であったため、小さい頃のに会ったことがある。

 一目見て気づかなかったのは、動揺していたこととそこまでが母親似じゃなかったからだ。

 かつての侍女の娘として生まれ変わるなんて、何か変な縁だな。

 変と言えば、てっきりが紅家の人間だと思っていたのに違うということだ。

 それならば父親かと思ったのだが、違うと一刀両断された。

 ならば、この髪はなぜ?と思う。

 紅家特有の髪なのに、私には紅家の血が流れていないという。

 問うてみたいが、記憶喪失の私が知っているのはおかしいし、答えが怖かったので口を噤んだ。

 それから、私の仕事を教えてもらった。

 お嬢様の子守との手伝いの二つ。

 の担当は菜だ。

 主人のものはもちろん、家人たちの分も作っていた。

 今は掃除をしたり、掃除をしたり、掃除をしたりで大忙しだ。

 私は頭を怪我したし記憶喪失になったので、暫くは簡単なことしかやらせてもらわなかった。

 がせかせかと働いているのに、自分は何もしないなんて苦しかったが、その間に間取りや主人たちのことを頭に叩き込んだ。

 まず、この邸の主人はあの子。

 当主になるはずだったあの子は、弟の力で朝廷の書庫で働いている。

 あの子の家族は一人娘の秀麗だけ。

 先日、奥方の薔君が亡くなってしまったから。

 まだ、私はあの子と会っていない。

 薔君を失った悲しみが深く、臥せっているから部屋から出てこないのだ。

 正直、ホッとしている。

 前世で私はあの子の大叔母であり、彼によって殺されたのだから。

 あの子を前にして、冷静に対処できるかが分からない。

 なまじ原作を知っているだけに、黒狼となり人を殺していたという事実を知っている。

 私の正体を知ったら、あの子はまた殺すのだろうか?

 想像して震えた。

 私はあの子が怖い。

 人はあの子を良い人と捉えているし、本性はそうなんだろう。

 私があの子を目にして震えれば、何と思われる?

 頭の良いあの子のことだ。

 不審に思い、監視するかもしれない。

 最も、動くのは弟のほうだろう。

 黎深はあの子を敬愛し、あの子第一主義だ。

 あの子よりも黎深に殺されるかもしれない。

 怖い、怖いよ。

 震える私に何かがぶつかって来る。

!」

 明るい元気な声は秀麗だ。

「お、お嬢様、どうかなさいましたか?」

、へーき? 母様みたいにどっか行かない?」

 幼い秀麗は母親の死が理解できない。

 どこかに出かけているとばかり思っている。

「平気、です。お嬢様、私、ここにいますよ」

 私がそう答えると、秀麗は安心したように笑った。

 それに幼い頃の妹の姿が重なり、自然と秀麗を抱きしめる。

 もう、妹はいないし、私は『紅』ではない。

 前世を断ち切ることは難しいけど、囚われているままではいけない。

 私はもう『星』。

 怖い思いは消えないけど、近いうちに邵可に会いにいこうと決心した。



  

2008.1.13