彩雲国に夏がやってきた。

 例に見ないほどの猛暑で、暑さで倒れて出仕できない官吏が続出している。

 一番の被害をこうむったのは前から人手が足りなかったのに、少ない官吏がさらに倒れてと悪循環が起きている戸部である。

――そして、吏部。

 吏部尚書の未処理仕事で仕事に追われるのには慣れていたが、暑さにやられてダウンした。

 常日頃、精神的ダメージを負わされているせいか、相当のストレスも溜まっていて、他の官吏たちよりも回復に時間がかかる。

 よもや、吏部の機能停止かと思われたとき、一人の男が現れた。

 官吏ではない彼だったが、仕事は早くて丁寧だった。

 何よりも、あの吏部尚書を動かすことができるのだ。

 後(のち)に、彼と共に働いていた吏部官吏は語る。

――彼こそ救世主だ。あの吏部尚書になって以来、定時で帰れたのは始めてだった。

 猛暑のピークが過ぎ、官吏たちが戻るころには彼は姿を消した。

 ピクリとも動かなくなってしまった吏部尚書を残して……。

 一時はスッキリ片付いていた吏部はもうない。

 昔の人も言ったものだ。

 栄華は一瞬である、と。

 官吏たちは彼がいたときのことを、夏の暑さが見せた幻と思い込むことにした。

 今は現実を見なくてはいけない。

 涙を流しながら仕事を片付けていく。

 ああ、こんなときに彼がいたらいいのに。

 彼、紅が……。

 




2007.2.8
修正2007.4.16