私が死んだ日よりも、空が荒れていた。 雨は屋根を突き破る勢いで、風は木々を倒すように、雷は罪人を裁くように空を走る。 昨日まで庭を駆け回っていた薔君は、秀麗のように布団の中で弱弱しく息をする。 違うのは、秀麗のように元気にならないことだ。 薔君は死ぬ。 邵可や秀麗、静蘭を……私を置いて逝ってしまう。 「いっちゃうの?」 知っていたこととはいえ、身を切るような苦しさがある。 だって、救うことはできない。 物語を変える云々ではなく、助ける手立てさえ持っていない。 それが何よりも辛い。 噛んだ唇から血が出るが、心の痛みに比べれば大したことはない。 「、そなたは妾の血を濃く受け継いでおる」 ギクリと身が強張る。 「その容姿だけではなく、『力』をも……」 娘は父に、息子は母に似るものだ。 まだ幼い私だが、細部まで薔君に似ていると言われる。 将来、きっと生き写しと謳われるまでになるかもしれない。 そうしたら、この顔を見るたびに邵可は薔君を見るだろう。 「かーしゃま」 回らない舌だが、制するように言葉を強める。 「その能力は一族の女性が持つものじゃ。まさか、男であるまで持つとは思わなかったぞ。すまぬ、許せ」 薔君の謝罪が痛い。 だって、私は不幸ではない。 多少人よりも違う力があるだけだ。 言ってしまえば、一種の才能のようなもの。 だから。 「ゆるしぇなんていわにゃいで。こにょちかりゃはきずちゅけりゅもにょじゃにゃい。うれしーかりゃ(許せなんて言わないで。この力は傷つけるものじゃない。嬉しいから)」 あなたと私を繋ぐもの。 あなたが母だという証。 「せめにゃいで(責めないで)」 私の言葉に、眉を寄せて今にも泣き出しそうだった薔君は笑う。 「ふっふっふ。そうじゃな。は強い子じゃ。妾亡き後、邵可と秀麗、静蘭をよろしく頼むぞ」 いつものように笑顔で私の頭を撫でる。 ああ、死はすぐそこまできているんだ。 「とーしゃまよんでくゆ(父様呼んでくる)」 二足歩行できるようになった私は、前よりも遥かに身が軽い。 時々転ぶが、走れるようにまでなった。 邵可は静蘭と同じく、秀麗のところにいるだろう。 迷わずに秀麗の部屋を目指して進む。 「とーしゃま!」 扉を開けると同時に叫ぶ。 三人の視線が突き刺さるが、そんなもの気にしていられない。 「かーしゃまがよんでゆ(母様が呼んでる)」 一言で全てを察し、矢の如く飛んでいく。 さすが、黒狼。 あっという間に姿は見えなくなる。 「様。まさか、奥様が……」 「らめ! しぇーりゃ、ねーしゃまがきーてゆ(ダメ! 静蘭、姉さまが聞いてる)」 今日も秀麗は高い熱を出している。 大分落ち着いてきたようなのに、興奮させて熱を上げてしまってはいけない。 ハッと口を噤んだ静蘭だがもう遅い。 「せいらぁ、どーしたの? 母しゃまがなーに?」 大人しく布団に入っていた秀麗が、ジタバタと暴れだす。 風邪一つ引かない薔君が寝込んでこの嵐。 そのせいか機嫌が悪く、ぐずついている。 本能的に悟っているのかもしれない。 薔君が死んでしまうのが。 秀麗を見てられなくて部屋から出た。 雨は止まない。 2006.9.30 |