この五年、様々なことがあった。 精神年齢二十六歳の私にとって、貴陽は狭くて息苦しくなってきた。 ココだけではなく、他の世界を見てみたい。 日増しに募る思いは限界になっていた。 になる前の私なら、留まっていれただろう。 だが、私はもう『』でしかない。 紅邵可の家は、惰性で臆病な私を変えるのに最適だった。 好奇心は旺盛だが今一歩行動できなかった私は目に見えるように変わっていった。 こっちに来る前の私を知ってるものが、今の私を見れば同一人物かと疑うだろう。 それほどの変化を自分で感じた。 だって、私が身軽にあちこちへ行き、人とも積極的に話せるようになったんだよ。 ありえない、笑っちゃうよ。 ねえ、だからいいよね? 十分我慢したよね。 邵可も秀麗も薔君の死から立ち直った。 邵可には秀麗が、秀麗には静蘭がいるから大丈夫だ。 ――例え、私がいなくなっても。 前から決めていたことだし。 先王が倒れる前に旅に出て、皆の負担を減らそうって。 そのための勉強もしてきた。 確か、龍蓮は四歳で放浪の旅に出ていたはずだ。 なら、五歳の私だって平気だ! 問題は、紅家の影と紅邵可。 彼らが本気を出せば、私なんかすぐに見つかってしまう。 そこをどうしたもんか? あ、身分証明書がなきゃ、旅は出来ないんだっけ? うっわー、前途多難じゃん。 だけど、面白いな。 こう、やってやろう!って気になるね。 「何だ、餞別にくれるの?」 寄りかかる木から、果物が落ちてくる。 「ありがと。帰ってきたときには、お礼をするよ。何がいい?」 ざわざわと木々がざわめく。 <また、遊びにおいで> <会いに来て> <旅の話を聞かせて> 木々が語りかけてくる。 薔君が心配してた縹家の力がコレだ。 私は植物と意思疎通ができる。 赤ん坊のとき、庭の木から声がしてきたときは本気でビビッた。 やべっ、これって幻聴? 精神的にやばいのかな? そんな心配したけど、何てことは無い。 彼らは優しくて、眠るときには子守唄を聞かせ、せがめば生きてきた分だけの知識を教えてくれ、母のように守ってくれ、父のように厳しく叱り、姉のように温かく、兄のように導き、妹のように慕い、弟のように甘え、過ごしてきた。 私にとって彼らは第二の家族だ。 「そうか、分かっ……そこにいるのは誰だ?!」 盗み聞きした相手に、足元の石を投げつける。 もしや、縹家か? 体に緊張が走り、近くの木に手をかける。 いざとなったら、木たちが私を守ってくれる。 高まる心臓に、睨むように石の先を見つめる。 石はキンと呆気なく弾かれ、木の陰から誰かが現れた。 「藍龍蓮と言う。木と話す風流なそなたの名を聞きたい」 「!」 思わず声を失った。 なぜ、藍家の切り札がこんなところに……。 「僕は紅と申します」 何とか名を言い、ジッと瞳を見る。 一体龍蓮は何がしたいのだろうか? 真意というのは目に表れるもの。 一瞬の動揺、恐れ、怒り、感情が出る。 それらの何(いづ)れの感情も見出せない。 半時ほど見詰め合った後、龍蓮は大仰に頷いた。 「か。我が生涯の友と認定しよう」 「は?」 いきなりの言葉に頭が追いつかない。 何で見詰め合って、そんな結論になるんだ? コレが人と五十二度違うってコトなのか? 呆然とする私に構わず、龍蓮は言葉を続ける。 「さあ、よ。私とともに旅に出ようではないか。国中の木が待っているぞ」 あれ、これってチャンスじゃないか? この手を取れば、貴陽から出ることが出来る。 しかし、龍蓮を利用することになってしまう。 「龍蓮、僕が旅へついて行ってもいいのか?」 藍龍蓮なら言いたいことが分かるだろう。 きっと聞く前から、私の名など知っていたと思うし。 彩雲国という国全てを見てみたい。 家族は反対するだろうが、私はこの好奇心を満たしたい。 逃げれば追っ手がつけられる。 最悪、藍家と紅家が対立……なんてことになったりして。 仮にも私たちは直系同士だから、ありえないことではない。 「問題ない。行くぞ、」 キッパリと言い放つ龍蓮に私は腹を決めた。 「ああ、行こうか」 途中、書いておいた手紙を近所の人に渡して貴陽を出た。 さよならとは言わない。 一言だけ。 「行ってきます」 2006.10.7 修正2007.2.15 |