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「余……私は、今日からそなたら付きの武官になる」 「――はぁああ!?」 信じられないと目を見開く秀麗に誇らしげに劉輝は胸を張る。 ちょいちょいと彼が手招きするので歩み寄る。 彼のにこやかな笑みに劉輝は嬉しくなる。 初対面が最悪だったせいか、彼には嫌われたと思っていた。 ようやく仲良くなれるのかと思いきや。 「父上に何させてんですか? どうせやらせるのなら、霄太師にでもやらせれば良いじゃないですか」 黎深を思わせる壮絶な笑みに紅家の血を感じた。 それよりも。 「な、ななななぜ、そなた……知っておるのだ?」 そのことは最上級秘密だ。 「それは秘密です」 妖艶に笑う彼に今更ながら特別位を授けたことをほんの少し後悔した。 信じられない! 珀明は絶叫する。 「信じられない。なぜ、お前が庭で掃除などしてるんだ!」 やることは雑用ばかり。 押し付けられたり、わざと邪魔をされたり、その上仕事の量が多すぎる。 「――って、お前聞いてるのか?!」 またボーっと聞き流している友人を睨みつける。 「はいはい。でもな、庭掃除って結構いい所なんだよ」 「は?」 いきなりこの男は何を言うのか? 呆気に囚われる珀明に友人はさらりと言う。 「ああいう場所は官吏たちも気が緩む。ポロッと本音が出やすい場所なんだ」 覚えておくといいよ。 親切そうに語る友人の言葉に珀明は目を丸くする。 「奴らの弱みを握れば将来安泰……ってね」 極めつけにあくどい笑み。 こんなにも心配してるのに、どうしてこいつはこんなにも茶化すんだ! にやにやと笑う友人に思わず尋ねた。 「……お前一体何やってんだ?」 ため息混じりに零す珀明に友人の笑みは深くなる。 「弱み集めをしているんだよ」 珀明はあまりの答えにずっこけそうになった。 「――魯官吏、この二人は連日の徹夜で疲れが極限まで達しています。数刻、別室で仮眠を取らせるべきだと思います」 キリッとした表情で新進士が進言する。 確か、この顔は碧珀明だ。 「では君が、彼らの代わりに午前中、厠掃除と沓磨きをするかね」 さあ、彼はどう出るだろうか? 「いいでしょう。やります」 キッパリと言い切る碧官吏に思わず唇が綻びそうになる。 「それなら、私もやらせていただきます。庭掃除に午前中いっぱいもかかりませんので」 輝かんばかりの笑顔には妙な迫力がある。 どこにいても目を引く彼は、特別位彩虹を賜った者で初の女人官吏紅秀麗の弟だ。 ……そう、彩七家で藍家と並ぶ紅家の人間だ。 あの紅黎深の血縁者。 「ではこの二人を仮眠室へ連れて行きますので、失礼します」 「待ちなさい。昨日の報告がまだだ」 「「完璧です」」 二人の新進士の声が重なる。 「これで報告を終わらせていただきます」 碧官吏が杜官吏、紅官吏が姉の腕を抱え、引きずるようにして退室した。 今年の進士たちには期待が持てそうだ。 彼が去った後の吏部は見るも痛々しかった。 誰もが諦めかけたとき、州試に彼の名を見つけた。 やった、彼が戻ってくる。 俄かに吏部官吏たちが色めき立つ。 次に会試にも名が載っていた。 頑張れ、後もう少しだ! 官吏たちの心が一つになる。 ――そして、彼は無事国試に残り、特別位『彩虹』を賜った。 さあ、今日は宴会だ。 紅官吏、吏部は君を心の底から歓迎いたします♪ 吏部が存続の危機に陥っている。 主な原因は絳攸の上司だったり、吏部尚書だったり、養い親だったりする。 つまり、紅黎深。 猛暑のせいで部下は次々と倒れていき、絳攸は覚悟を決めた。 「吏部で働いてみないか?」 目をつけたのは血の繋がりのない従弟。 いや、これは彼の社会勉強になる! そう無理矢理言い聞かせて誘う。 「いきなり、どうしたんですか?」 「いや、邵可様から聞いているかもしれないが、朝廷の官吏たちがやられて使い物にならんのだ」 これは決して嘘ではない。 「それで私、ですか?」 「安心しろ。官吏として働かすわけにはいかないから、俺の雑用係として、だ」 むしろ、吏部尚書の雑用係、と心の中で付け足す。 「絳兄上、精一杯頑張ります!」 何も知らない従弟はキラキラと目を輝かせて了承してくれる。 「ああ、一緒に(黎深様のことを)頑張るぞ」 チクチクと良心を痛めながらも絳攸は笑顔を作った。 2008.1.19 |