『家族団欒』のおまけ

 夢を見た。
 私と父様、母様、静蘭……あの子がいて。
 貧しいながらも皆で幸せに暮らしている。
 母様は死んでなんかいなくて、あの子も行方不明になんかなっていない。
 家からは絶えず笑い声が聞こえ、美しい二胡の音が流れてくる。
 賃仕事から帰ると「お帰り」と迎えてくれて、私は「ただいま」って返す。
 あの子がいなくなってからずっと見ていた夢。
 あの子が帰ってきたと知ってからずっと見ていた夢。
 紅邸に着いた軒から降りると、大股で家の中へと走っていく。
 早く会いたい!
 思いっきり扉を開けると、そこにいたのは死んだはずの母様。
「お帰り」
 発せられた声は低く、よく見れば見上げるほど背も高い。
 ま、まさか……。
 私は指差し大声であの子の名を叫んだ。




『夕食の日』のおまけ

「これからも、宜しくお願いします。『愚兄其の四』」
 春先に出会った幽霊に酷似している彼はそうのたまった。
 しかも、信じられないことに、あの弟の『生涯の友』だという。
 藍邸に帰った楸瑛は、すかさず当主である三つ子の兄たちに手紙を送った。
 龍蓮の行動は逐一兄たちに伝えられている。
 それならば、彼のことももちろん知っているだろう。
……多分。
 自信がないのは、彼のことを知っていれば邵可に話していただろうから。
 行方不明だった彼を、邵可は、紅一族は捜していた。
 それを知らない兄たちではなく、邵可を慕っていることもあるので何も言わなかったのはおかしい。
「絳兄上」
 そう親友を呼ぶ彼の姿が浮かぶ。
 そして、滅多に笑わない絳攸が彼の前で頬を緩めて……。
「……全く」
 嫉妬なんて馬鹿らしい。
 自分のほうが絳攸と長い付き合いなのに、ポッと出の奴に横から盗られたように思うなんて……。
 ガシガシと頭を掻き、寝転んだ。
 悔しいなんて感じるのはいつぶりだろう。




『再会』のおまけ


「残念だったね、絳攸。せっかく同じところで働けたのにね」
 帰りの軒で楸瑛が笑う。
 確かに惜しいとは思うが、メインは秀麗だ。
 国試の女人受験を黄尚書に認めさせるために必要なのは彼女だけだ。
 弟のほうはついでと言ってもいい。
――それに。
「来年、あいつは官吏になる」
 本人が断言していたし、邵可さえ頷けば問題ない。
 ただ、官吏になる前に朝廷を見せたかった。
 そこがどういう場所なのか、事前に教えてやりたかった。
 あわよくば、戸部で伝手でもできれば、と。
 自分が苦労した分、同じような苦労は背負わせたくない。
 だが、そうもいかない。
 なら、せめて少しでも知って覚悟を決めて欲しい。
 そうすれば、感じる苦労も少しは違うと思う。
「すごいな、君がそれほど秀麗殿の弟にこだわるなんて」
 珍しいと揶揄る楸瑛に、絳攸はあっさりと答えた。
「当たり前だ。俺はあいつの兄だぞ」



『怪しいおじさん』のおまけ

 ゲラゲラと腹を抱えて笑う燕青に、頭を抱えて顔を赤くする秀麗。
 最初は私も笑わせてもらったが、そろそろ可哀そうなので助け舟を出そう。
「それも面白かったけど、変な人にあったんだよ。ね、秀姉上」
 変な人。
 そのフレーズに、ピクリと邵可と静蘭が反応する。
「そ、そう! 多分文官の人だと思うけど、いきなり私たちに自分をどう思うかなんて聞いてきたのよ」
「へーえ。変な人だなぁ」
 まだまだ笑う燕青とは逆に、静蘭の周囲の空気が冷たくなる。
 で、邵可はと言うと微妙な顔をしている。
 変な人が自分の弟かどうか悩んでいるんだろう。
「そりゃあ、本を運んでくれたけど……ねえ」
「うん。自ら『おじさん』と呼んでくれなんて怪しいよね」
 邵可は額に手を当ててため息を吐き、静蘭は持っていた茶碗を思わず落っこどしてしまう。
 どうやら、分かったようだ。
 怪しい『おじさん』の正体について。




『盗まれた鍵』のおまけ

 戸部に一人残された柚梨はハタと気づく。
 宝物庫の鍵を盗んだ子どもたちが、彼の名を違う名で呼んでいた。
「……私の聞き間違えなんでしょうか?」
 でも、そこまで歳ではない。
 柚梨の耳には確かに官吏たちの間で流行っている作家の名に聞こえた。
 もちろん、柚梨も愛読しているので名前を聞き間違えるなんてことはない。
 まさか、彼がその作家だと言うのだろうか?
 いくらなんでも、まずないだろう。
 彼まだ十五だし、作者本人であれば少なくとも十二で書いたことになる。
 十二の子どもにあのようなものが書けるとでも……。
 考えて緩く首を横に振る。
 宝物庫の鍵を奪われ、平常心を失っているにしても馬鹿らしい。
 名前が同じだけで、作者本人だとは限らない。
 たくましい自分の想像力に苦笑する。
 それよりも、今は宝物庫の鍵だ。
 国に一つしかなく、合鍵はまず作れない。
 ああ、どうしよう、どうしよう。
 とりあえず、探しに行った己の上司と彼を信じるしかない。





2007.1.13