よし、今日も頑張ったな自分。

 秀麗たちも帰ってきたし、夕飯が楽しみだな。

 何せ、私は料理が苦手だ。

 あまりの下手さ加減に周りに料理をするのを禁止されてしまったほどだ。

 お茶を入れるのは普通に出来るけど、料理になると話が全く違ってくる。

 そのせいで、秀麗が戻ってくるまで昼食ぐらいしかまともなものが食べれなかった。

 見かねた黄家の庖人が簡単なご飯を作ってくれたけどね。

 食べ盛りの男としてはキツイものがあります。

 ぶっちゃけ、質よりも量だし。

 う〜ん、そのせいか食料費だけでけっこうお金かかってたんだよね。

 もうそんな心配ないけど。

 美味しくてボリュームたっぷりのご飯が食べれる。

 意気揚々と歩いていると、一つの軒が目に入った。

 馭者台に乗っているのは静蘭だ。

 何で静蘭があんな金持ちが乗るような軒に……?

 首を傾げている私に静蘭が気づいた。

様、どうぞお乗りください」

「え、いいの?」

「はい。家に向かっていますから」

「じゃあ、遠慮なく」

 上がった先にいたのは絳攸と楸瑛。

 何やら荷物を持って……そうか!

 これが例の『夕食の日』だな。

 我が家の家計を密かに支えてくれることになる。

「絳兄上、お久しぶりです」

「久しぶりだな、。今日はこいつともども夕飯を共にさせてもらう」

「絳攸、この人は……」

 驚いたように目を見開く楸瑛の様子が変だ。

 まるで、幽霊にあったようなリアクション。

 ん?

 幽霊って何かひっかかるなぁ。

「邵可様のご子息のだ。、こいつは藍楸瑛」

「邵可様の……って、行方不明だったあの?」

 あのって何だよ、あのって。

 私のそんな視線に気づいたのか、すぐににこやかな笑みを浮かべて自己紹介をしてくれた。

「失礼。初めまして、殿。私は藍楸瑛と言う。どうぞ、よろしく」

 あれ?

 今の言い方だと、私と龍蓮が知り合いだって知らないのかな?

 藍家直系だから、てっきり知っているものだと思ってた。

 龍蓮、三つ子当主経由で。

「初めまして、藍将軍。私は紅と申します。藍将軍の噂はかねがね聞いております」

「ほう、どんな噂を?」

「はい、女性を追いかけて人格形成が遅れているとか、腹黒いとか、風流ではないとか、ですね」

 ぴしっと楸瑛の顔が固まる。

 ちなみに、情報源は龍蓮である。

もこの常春のことを知っていたか」

「はい。我が友人殿がそう言っておりました。秀姉上に手を出されたら困るので、しっかりと名を覚えておいたんです」

 楸瑛は自他共に認める女好き。

 珠翠が好きそうだから本気になることはない……と思う。

 遊びで手を出そうにも、紅家が黙ってないし。

 黎深の怖さに静蘭の腹黒さを知っているだろうから大丈夫だろう。

 劉輝も黙ってないだろうし、何てったって一番の難関は邵可。

 黎深に三つ子ぐらいしか知らないだろうけど、怒らせたらどーなることやら。

 後、ついでに私もいれておこう。

 義兄となる人なら黙っておけないし。

「はは、手厳しいね。それよりも、『絳兄上』って」

 知ってるのかい?と、目で絳攸に振る。

「血の繋がらない従兄弟だとは知っているそうだ」

 黎深様のことは名前はもちろん、紅家当主だということは知らない。

 知っているのは邵可様の弟だということだけだ。

 小声でそう付け足す。

 私に聞かれたくなかったようだが、バッチシ聞こえてます。

 知らない振りでもしておこう。

「絳兄上のことは、国試を十六で状元及第したと聞いたときから憧れていました。そうしたら、友人が「お前の従兄弟だぞ」って教えてくれて、貴陽に帰ったらお会いしたいと思っておりました」

 ちょっと絳攸の顔が赤くなる。

 照れてるのかな?

「実際に会ってどうだった?」

 問う楸瑛。

 そんなの決まってるじゃないか。

「尊敬に値する人です。私自身、絳攸様を実の兄のように慕っています」

 あ、絳攸の顔がさらに赤くなった。

 その様子を見て、楸瑛の口元が緩む。

 ニヤニヤとしたものではなく、穏やかな温かいもの。

 こう、子どもを見守る親の眼差しって感じ?





「あ、着いたみたいですね」

 止まった軒から降りて、ふと楸瑛を振り返る。

 やるなら、ここだよね。

「これからも、宜しくお願いします」

 一呼吸置いて。

「『愚兄其の四』」

 茶目っ気たっぷりに、彼の口調を真似て言う。

 馴染みある呼び方に、楸瑛は再度固まる。

 いや、凍りつくって感じだ。

 あ、そうだ。

 楸瑛は春に、薔君の幽霊に会ったんだった。

 生き写しのこの顔見りゃ驚くのも無理ないか。

 同じ初対面でも絳攸はそんなに驚いたようでもなかったけど。

 ま、いっか。

「さ、絳兄上、行きましょう」

「ああ。こら、貴様いつまで呆けている。置いてくぞ」

 ポカリと頭を殴ると、ようやく我に返った。

「ちょ、殿。まさか、君、あれと知り合いなのかい?」

 顔を引きつらせる楸瑛に、こくりと一つ頷く。

「彼は私を『生涯の友』と呼びますよ」

 障害、傷害、渉外、生害……。

 ブツブツと言う様はちょっと怖い。

 実は私が龍蓮に誘われて旅に出たことを知ったらどうなるだろう?

 とりあえず、そのことは当分黙ってあげることにした。

――だって、「煩い!」「黙れ!」と物を投げつけられる楸瑛が哀れなんだもん。







2006.10.19