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今日で最後の進士服。 少し、名残惜しい気もする。 吏部ではなく広間に集められた私たちは、主立った朝廷百官を見て戸惑う。 いや、私は戸惑ってないけど。 「……おかしいな。いつもなら吏部で、吏部尚書から官位と辞令を受けると聞いたが」 首を捻る珀明に秀麗が頷く。 「そうよねぇ。私もそう聞いたわ」 「あれだね。国試及第のときみたいだね」 知ってるけど、そ知らぬ顔をして会話に混ざる。 仲間はずれって哀しいし。 「まあいい。さて、どこに行かせるんだか。僕は絶対中央だな」 「僕は、できれば地方がいいですー。さんと秀麗さんは?」 「私は中央がいい。特に戸部で働きたいな。秀姉上は?」 「どこでもいいわ。どこだって、やることは同じだもの」 キッパリと言い切る秀麗に迷いはない。 そこへ魯官吏……じゃなかった魯尚書が入ってくる。 これで、ようやく官位と辞令が与えられる。 さてさて、私は一体どこになったのかな? 原作通りに皆振り分けられた。 珀明は尚書省吏部下官。 影月と秀麗は茶州州牧。 飛び入り参加の燕青は、茶州州牧補佐。 茶州と言う特区ゆえ、専属武官の静蘭。 「最後に、紅進士。前へ」 よーやく私の番か。 「余の時代初の彩虹であるそなたを、茶州州牧補佐に任じる」 へえ、私が州牧補佐ねぇ。 面白いじゃん! ニヤけそうになるのを必死で我慢し、肯定の言葉を口にしようとするも邪魔される。 「主上! どういうことですか?!」 「姉の紅進士が州牧で、弟までもが州牧補佐なんて」 贔屓だ!とあちこちで声が上がる。 「いや、紅には実績がある。十三歳で地方官の資格を持ち、二年余り茶州で地方官吏として働いてきた。昨年夏、戸部臨時施政官として黄尚書のもとで見事勤め上げ、任命書もここにある」 そりゃあ、燕青のついでにだろ。 「いや、だからと言って……」 ざわめく官吏たちに劉輝がため息を吐く。 「では、『』と言えば分かるだろうか?」 その名に煩かった場が静まり返る。 って何でその名知ってんの? 私の正体を知ってる黄尚書のほうを見るが、軽く舌打ちしてるところを見ると出所は違うみたいだ。 「その才は碧家が認めた文豪。国試を受けたものの中には、彼の本に世話になった者もいるだろう」 辺りを見渡してから劉輝は私を見る。 「うむ。余も読んでみたが、素晴らしい出来だった」 生真面目な顔で頷くが、返って怪しい。 どうせ、物語のほうしか読んでないんだろっ。 「ま、まさか紅進士が先生とでも?!」 一人が声を上げると、周りの者たちからも賛同の声が上がる。 「先生の処女作は四年前です! いくらなんでも、彼では若すぎます」 鼻息を荒くまくし立てる官吏の言葉に笑いたくなる。 一般的に考えれば、彼の言葉は正しいだろう。 私がただの十二の子どもだったら、あの作品は書けていなかった。 でも、何の悪戯か体は子どもだけど精神的には大人だ。 そろそろ口出さないと終わらなさそうだし、さっさと是と答えるか。 「……主上、どうやってお調べになったのでしょうか?」 母親譲りの美貌を生かし、艶やかに笑ってみる。 お、官吏がちょっと赤くなってる。 「認めるのだな? であると」 「はい、証人もいます」 あ、犯人分かっちゃった。 黄尚書でないと、あいつしかいないわな。 「浪燕青……私の元上司が証人です。信用なさらないのなら、茶州の官吏たちに問いただしてください」 茶州にいたころ、私はのペンネームで官吏として働いていた。 紅姓の本名を出せば捜しているはずの紅家にバレるし、旅ではと名乗っていたので慣れてるし。 母と同じ顔のせいで悠舜に見破られたものの、口止めして黙っていてもらった。 「浪燕青では信用できぬという方は、私の後見人である黄戸部尚書に尋ねたらいいでしょう」 高官たちの顔色が真っ青になり、ゴクリと喉が鳴る。 燕青にはダメだしできても、黄尚書にはできないらしい。 先日のことがあるしね。 「反対者はおらぬようだな。どうだ? 紅進士」 「謹んで、お受けします」 ――さあ、物語は動き出す。 2007.9.20 |