午過ぎ、私はようやく重い腰を上げた。

 久しぶりに爆睡してしまったようだ。

 手を組んで伸びをすると、面白いほどコキコキと関節が鳴る。

様、こちらにいらしたんですか?」

「ああ、静蘭。お早う」

「お早うございます。お嬢様が捜しておられましたよ」

「秀姉上が? 何か用なのかな? 静蘭、聞いてない?」

「多分、午後のお誘いだと思います。午後から旦那様のお客様が来るようで、二人きりで話がしたいそうです。ですので、出かけていて欲しいと仰ってました」

 邵可に客?

 まさか今日って玖琅が来る日かよ!

 あー、やっべー。

 あの黎深を当主にさせた人だし、今はまだ会いたくないな。

 よく考えてみれば、私って邵可の嫡男だから、当主の資格があるんだよね。

 原作では、秀麗と絳攸を結婚させて、絳攸を当主にするつもりみたいだけど……。

 う〜む、考えるだけで面倒くさい!

 午後は家に寄り付かないようにしよ。

 さて、ここでどうするか?

 秀麗たちと素直に胡蝶のとこへ行く……のはちょっとなー。

 課題終わらせたいし、無駄な体力は使いたくないしなぁ。

 どうせ、秀麗たちのとこには強い味方がいるから安全だし。

 ってことで、珀明のとこにでも行くか♪




 ふふん、珀明の邸には何度も来てるんで顔パスさ。

 直で珀明のとこまで連れてってもらえたさ。

 私を見て驚く珀明に、やあ!と愛想よく手を振る。

「ちょっと世話になるからよろしく」

「はぁ? 世話って、どうしたんだ、いきなり……」

「色々あってさー、今晩泊まることになったから」

 まさか、断んないよねー?

 ジーッと見ると仕方ないと言ったように了承してくれる。

「一体どうしたんだ?」

 訳ぐらい聞かせろと促すので、説明することにした。

「いや、さぁ。珀も知ってるだろ? 秀姉上が国試を不正及第したって噂」

 私の言葉に珀明は頬を掻く。

 まあ、知らない奴はまずいないよね。

「そろそろ進士返上を求める連名書とか出てきそうだし、私もジッとせずに動こうかなっと」

 まあ、あの二人は自分たちで犯人の証拠を集めるけど保険はいくらあってもいい。

 私が課題を提出しても問題ないはずだ。

 課題のほうも後は清書するだけだし。

 さっさと礼部の分を仕上げて、その分だけでも提出しよう。

「進士返上か。まったく、馬鹿なことをする奴がいるものだ。すでに出されているらしいぞ」

 さすが碧家、情報が早くていいね。

 なら、遊んでる暇はない。

 とっとと仕上げるか。




 ふふふふふー。

 さっすが私!

 夜になる前に礼部の分だけは清書できましたー。

 さて、これをどう届けるかというと。

「鳳珠様、魯官吏の課題の一部です。秀姉上のために役立ててくださいね」

 正解は黄尚書に渡す、でしたー。

 どうして、黄尚書がここ、碧家の邸にいるかというと、手紙で呼び出しちゃいました。

 だって、他のも清書したいし、外は危険だし。

「――課題の一部だと?」

 パラパラとすごい速さで課題に目を通す。

「はい、他の六部の分もあるので一部です」

 黄尚書を呼びつけることに珀明はギョッとしていたが、彼が私の後見人ということもあり、一応は納得してくれた。

 でも、アレだよね。

 仮にも紅家の者なのに、後見人が黄家って変だよね。

 いや、これが藍家じゃないだけマシかな?

 それこそ、すごいことになりそう……。

 ま、仮定の話なんか置いといて。

「秀姉上たちも提出すると思いますが、万が一のための保険です」

「いや、よくできている。明日の朝議で使おう」

 お、褒められたぞ。

 力作だから嬉しい。

 でもさぁ、課題から目を離して話そうよ。

 本当に人の話聞いてんのかな?

「そう言えば、お前の姉と杜影月が花街で監禁されたぞ」

 あれ、もう黄尚書の耳に入ってるのか。

「彼女の後見人が不正介入して及第させたとして、明日の正午に査問会が開かれることになった」

 査問会、ね。

 望むところだ。

 私は口角をキュッと上げた。

「教えてくださってありがとうございます。明日の朝にでも秀姉上に会いに行ってきます」

 ほうっと黄尚書が息を吐く。

「できることなら、お前には戸部に来てほしいものだ」

「私も戸部を希望してます」

 私の返事を聞くと、書簡を仕舞って立ち上がった。

 私も倣って立つ。

「――明日に」

「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様」

 黄邸にいたときのような挨拶をする私に、黄尚書の笑いがふと漏れる。

 さて、若き王は私をどこに配属するのか。

 叔父と絳攸がいる吏部?

 黄尚書がいる戸部?

――それとも、秀麗と同じところ?





2007.5.18
修正2007.9.2