「――魯官吏、この二人は連日の徹夜で疲れが極限まで達しています。数刻、別室で仮眠を取らせるべきだと思います」

 よし、よく言った珀明!

 グッと拳を作ってからハタと我に返る。

「この二人」ってことは私は入ってないんかい。

 まあ、そこらの文官の奴より体力はあるけど。

 忘れられたみたいでちょっと切ない。

「では君が、彼らの代わりに午前中、厠掃除と沓磨きをするかね」

 進士たちがどよめくなか、珀明はきっぱりと言った。

「いいでしょう。やります」

 かっこいいなぁ。

 私も負けてられない。

 珀明に負けじとズイッと前へ出る。

「それなら、私もやらせていただきます。庭掃除に午前中いっぱいもかかりませんので」

 輝かんばかりの笑顔で申し出て、魯官吏をグッと黙らす。

 ちらっと珀明に目をやると、私の意図を察してしっかりと頷いた。

「ではこの二人を仮眠室へ連れて行きますので、失礼します」

「待ちなさい。昨日の報告がまだだ」

 引きとめようとする魯官吏に。

「「完璧です」」

 珀明と私の声が重なる。

「これで報告を終わらせていただきます」

 珀明が影月、私が秀麗の腕を抱え、引きずるようにして歩き去る。





、魯官吏の課題何をやる?」

 府庫へ行く道、珀明が尋ねてくる。

 あの一件から珀明は秀麗と影月の仕事を手伝ってくれている。

 おかげで睡眠時間も増え、今にも倒れそうだった二人はちょっとヤバイ人ぐらいに戻った。

「ありがとな、珀明」

 私がお礼を言うと、珀明はプイとそっぽを向いた。

 お、耳が真っ赤になったぞ。

「ゆ、友人を助けるのは当たり前だ」

 それより、と肩を怒らせる。

「あいつらは馬鹿か? あそこまで意地を張る前に、ひとこと言うだろ!」

 珀明なりに心配してたんだよな。

 ずっと助けを求めてこないかと待っていたのに、あの二人は一向に言ってこない。

 ついに我慢の限界にきたところで、私が声をかけて動いてくれた。

 ま、原作を知る限り、私が声をかけなくても助けてくれるけどね。

 本当に良い奴だな。

「おい、聞いているのか?」

 珀明のムッとした声で、現実に引き戻されていく。

「聞いてるよ。課題だろ?」

「そうだ。お前のことだから、決めているんだろう?」

 その一言でピンときた。

 近頃、珀明が何か物言いたげな様子でこっちを見てたのはそのせいだったのか。

 魯官吏の課題なんて、他の官吏たちはまだ考えてもないだろう。

 他の仲が良い官吏に聞いたところで答えが聞けるか分からないし、気軽に聞けるものではないし、一人で悩んでいて煮詰まったのか。

 その上、秀麗と影月はあの仕事の量。

 私にしても仕事が忙しく、てんてこ舞なので話せずにいたんだろう。

「もちろん。……と、いうかやってるよ」

「何ぃっ?!」

 ガ――ンと思いっきりショックを受けた顔をする。

 面白い顔。

 あまりのオーバーリアクションぶりに苦笑する。

「いや、今じゃなきゃできないからなんだ。調査中ってやつだな」

 うんうん、と一人頷く。

 前もって課題のこと知ってて本当に良かったよな。

「『今じゃなきゃ』だと?! 何やっているんだ?」

「その前に、私は戸部希望だと言っておくよ」

「戸部?」

「吏部も捨てがたいけど、戸部のほうが人手不足だ。何より、財政のが得意ってこともある」

 旅が長かったせいか、節約上手になったんだよな。

 黄家や戸部で働いていたせいもあるけど。

「とりあえず、六部の財政見直しをして不必要な分を指摘する。削れるだけ削るが、質を落とさないようにしなくちゃならない」

 早い段階から調べていて、メモは作っている。

 量が半端なく多くて、どれが何やら分からなくなっていくのが難点だ。

 正直珀明が手伝ってくれなきゃ、私もパンク寸前で課題どころじゃなかっただろう。

「珀は吏部だろ。それだと人事系か?」

 神妙な顔をしつつ、空っとぼけたことを言う。

 何か嘘吐くのが上手くなってきたな、自分。

 詐欺師でもやっていけそうで怖いよ。

「ああ。いくつか考えているんだが、どれにしようかと……」

 珍しく弱気になってるな。

「フーン。中身は聞かないけど、アピール系にしといたほうがいいよ。吏部の人に欲しい!って思わせるような、ね」

 あー、就活思い出す。

 いや、結局やらなかったけど授業をね。

 あのおかげで履歴書かけるようになったけど、志望動機が曲者でねー。





 そろそろ府庫だ。

「じゃ、さっそく」

「ええ、お仕事終わったあとにもまとめましょーかー」

 中から影月と秀麗の声が聞こえてくる。

 どうやら礼部からの無駄な出費に気づいたらしい。

「あいつら」

 はあ、と珀明が息を漏らす。

「……仕事終わったあとにも、まだ何かやるつもりなのか?」

 心底呆れた声で二人を見る。

「まあまあ、怒るなよ」

 ポンポンと珀明の肩を叩く。

!」

 秀麗が気づき。

「珀さん! またきてくれたんですか」

 影月も気づいた。

 駆け寄ってくる二人に愛犬を思い出させる。

 あんな可愛い二人を殺そう(私もだけど)とするなんて蔡尚書ってば許せないな。

 ちょっと秀麗たちと課題が被ってることもあるし、一悶着起こる前に仕上げなきゃね。

 私のやっている課題も役に立てると思うし。

 これからが頑張り時だな。







2007.1.10
修正2007.4.16