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私に与えられた仕事は庭の掃除。 どうやら私も魯管理に目をかけられているよう。 やったね。 これで出世街道間違いなし! 軽く鼻歌でも歌いそうになりながら、テキパキと箒で葉っぱなどを掃いていく。 黄家で掃き掃除やったことあるしね。 体が自然と動いていくよ。 ジャリ。 土を踏む音に気づき、頭を垂れる。 「このような者に、庭掃除ができるのでしょうかね」 「何せ、あの雌豚の弟。女が朝廷にいるだけで不快なのに、同じ血を引く弟までいては、ねぇ」 意地悪く声を立てて嘲笑する。 今すぐにでも張り倒したいが、ここは我慢しなきゃな。 こうゆう馬鹿どもは、下手に反応すると面白がって頭に乗る。 「そうだ、聞いているか?」 「ああ、例のことでしょう? もちろん。あの男もやりますね」 「全くだ」 私が何のリアクションも返さないから、つまらなそうにと話題を変えてきた。 そっと聞き耳を立てる。 もしかして、これ蔡尚書のことじゃないか? 去っていく後ろ姿を確認してから顔を上げる。 あの髪型に声、名前、官位。 次会ったら顔見とかなきゃね。 私の悪口だけならまだしも、秀麗のこと雌豚だなんて、ね。 ふふ、いい度胸してるよね。 私も黎深を見習って、本格的に奴らの弱みを握らなきゃ。 「、迎えに来た。行くぞ」 正午の鐘が鳴ると珀明が来る。 ここずっと一緒にお昼を食べるのが日課になりつつある。 秀麗と影月と食べるつもりだった私は、それからマイ箸を持ってきている。 だってさ、箸には毒が塗られてるんだもんね。 初日は誤って箸を落としてしっかりと拭って食べていたが、これを次もやるとわざとらしい。 苦肉の策として箸の携帯。 訝しむかと思えば、全然気にしなかった。 そんなことより、珀明の気は別のところに向いている。 ――即ち。 「信じられない。なぜ、が庭で掃除などしてるんだ!」 私の午前やる仕事について、えらく怒ってるんだよね。 それだけじゃなく、その後の仕事の量も多すぎだーとも。 珀明が入る吏部を思えば当たり前の量だけどさ。 むしろ、少ないんじゃない?って感じだし。 「――って、お前聞いてるのか?!」 聞き流していた私をキッと睨みつける。 ハッキリ言って怖くないんだけど、これ以上怒らせてもいけないから頷いておく。 「はいはい。でもな、庭掃除って結構いい所なんだよ」 「は?」 「ああいう場所は官吏たちも気が緩む。ポロッと本音が出やすい場所なんだ」 覚えておくといいよ。 いけしゃあしゃあと言い放つ。 目を丸くする珀明にさらに言ってやる。 「奴らの弱みを握れば将来安泰……ってね」 ニヤリとあくどく笑う。 冗談交じりに言う私に、珀明はがっくりと肩を落とす。 自分がこんなに心配をして、あまりの理不尽さに怒っているのに本人は何でこうなんだ? 表情からそう読める。 珀明って単純だから分かりやすいな。 「……お前一体何やってんだ?」 ため息交じりに零す珀明に私は笑う。 そんなの簡単じゃん。 「弱み集めをしているんだよ」 午を過ぎてからが本当の勝負の時間だ。 膨大な書簡の山から機会の如く瞬時に物事を判断して処理していく。 夏から戸部で働いていたのが良かったらしい。 何とか自分の分は時間内に終わる。 ……ちょっと、オーバーしがちだけど。 でも、秀麗と影月が終わらないので、手伝って夜も府庫に篭りきりである。 ごめんよ、静蘭。 邵可も帰らないし、家で一人きりで寂しく過ごしているかもしれない家人に心の中で謝っておく。 静蘭も私の立場なら、絶対に二人を手伝うよね。 今度、邵可を家に強制送還させるから。 許せ、と付け足しておく。 「あのマロっ。いっつも厠掃除直後にわざと床汚していくのよッ。あの面と官位しっかりと覚えてるわ。なーにが『麿』よ! 裏工作で今の官位にいるって噂、厠で聞いたわ!」 「確か、礼部の和官吏ですよねー。僕のとこにもよく沓磨きにきます」 「私のとこにも来るよ。わざわざ塵を撒き散らしにね。礼部ってそうとう暇なようだね」 「本当ね……っていうか計算大丈夫!? ものすごい桁やってたじゃない」 「あ、ちゃんとさっきまでの和算は覚えてますから。それより秀麗さんこそ仕分け」 「ふっ、人間は学習する生き物よ。仕分けしたもんにはきっちり印つけてあるから平気。ね、」 「うん。さて、さっさと仕事片付けよう」 促すと止めていた手を動かし始め、作業を再開させていく。 う〜ん、この量三人でもキツイな。 今度、珀明に言って手伝ってもらおうかな? あの子も声かけられるの待ってるみたいだし。 私の一日はこんな感じに終わっていく。 2006.12.21 |