白の官服を着た私は、三人を急かして家を出た。

「ねえ、。何でこんなに早く出るの?」

「そうですよー。予定では、もう少し後でしたよねー」

 不思議がる二人は知らないからそんなことが言えるんだ。

「それじゃあ、間に合わないよ。書状の時刻間違ってるから」

 私としたことがうっかりしてた。

 あの能無し小悪党の蔡尚書。

 きっちり三人分やってくれましたとも!

 ってか、私の後見黄尚書なのによく手出してきたな。

 まあ、秀麗と私の時刻が間違ってたら即バレるけどね。

 姉弟っての知ってたのか、たんに私も気に食わなかったのか。

 どうせ、後者だろうなぁ。

 彩虹なんてのもらっちゃったからねぇ。

 恨むぞ、劉輝。







「書状の時刻が間違ってるですってぇええ!? 私たち三人とも!? ちょっとふざけてんじゃないわよ――――っっ」

 城門をくぐった先に羽林軍の軍装を纏い、武官になりきっている劉輝の一言で私たちは庭院を駆けている。

 しかも、後ろからは街の破落戸と大差ない下っ端兵士たちが追いかけてきてるし。

「ほら、秀姉上に影月頑張れ! で、君はとっとと案内してくれない?」

「ムッ。そなた、余にだけ冷たくないか?」

「気のせいじゃないですよ。王なら王らしく、あんな馬鹿げたことをやる暇な官吏なんて即刻首にしてくださいよ。税金の無駄遣いですよ」

 じと目で見てくる劉輝をスパッと切り捨てる。

 あんな奴らに私たちの大事なお金が払われてるなんて冗談じゃない。

 影月や他の新進士たちからお金をくすねてるし。

さーん。相手は王様ですよぉ」

「影月、王に媚びへつらってばかりいたら、国というものは駄目になるんだ。ときに厳しく、自分の首すらかけて本当のことを話して差し上げるのも王のためなんだよ」

 キッと真面目な表情をして、もっともらしいことを力強く説いてみる。

「そうよね。間違った方向へ行こうとしたら、ひっぱたいてでも方向修正しなくちゃいけないわね」

「そうですねー。例え王様でも、言うべきことは言わないといけませんねー」

 うんうん、と頷く二人に一人だけしょんぼりする劉輝。

 秀麗が庇ってくれるのを期待していたらしい。

――

――前から兵が来たよ。

 木々たちの言葉にハッとして体が動く。

 秀麗を劉輝が、影月を私が自分たちの胸に引き込み、前方から突進してきた兵士を殴って失神させる。

 四人で近くの大きな茂みに身を隠し、兵士たちをやり過ごす。

「……前途全難ね」

「だから余が来たのだ」

 さりげなく秀麗の髪に触れようとする劉輝の手をペシっと叩き、私がきちっと乱れた髪を整えてやる。

 叩かれた手を反対の手で摩りながら、眉を寄せて悲しげな顔で見てくる。

 何かちっちゃな子を虐めてるような気がしてくる。

「し、しばらく王様業の大半は、完璧に仕事をしてくれる、ある者に任せた」

「は?」

「余……私は、今日からそなたら付きの武官になる」

「――はぁああ!?」

 信じられないと目を見開く秀麗に誇らしげに劉輝は胸を張る。

 あーあ、本当に子どもみたいだな。

 ため息を吐き、劉輝をちょいちょいと自分の傍へ呼ぶ。

 素直に来る劉輝に、秀麗たちには聞こえない程度に声を落として言う。

「父上に何させてんですか? どうせやらせるのなら、霄太師にでもやらせれば良いじゃないですか」

「な、ななななぜ、そなた……は知っておるのだ?」

 ビクッと肩を震わす劉輝にさらっと答える。

「それは秘密です」





 ようやく着いた。

 嫌味なことに私たちが入ってきたとたんざわめきがやみ、陰口大会になった。

 どれも秀麗に向けてのもの。

 あームカツク!

 思わず何か言ってやろうと思ってたら、珀明がつかつかとこちらに歩いてきた。

 眉間に皺を寄せ、明らかに怒っている。

「や、珀」

「『や、珀』じゃない! もうすぐで遅刻だったんだぞ。一体なんでこんな遅くなったんだよ」

 何でって言われてもなぁ。

「馬鹿で無能で暇な給料泥棒のせいだ」

「は? まあいい。官服に葉っぱがついてるぞ。髪も乱れてるし、だらしない」

 ブツブツと言いながらも、珀明は葉っぱを払ってくれる。

 やっぱいい奴だよな。

 珀明の好意に甘えて、私は髪を直す。

 ギリギリ到着したから、そろそろ蔡尚書と魯官吏が来てしまう。

 蔡尚書を鼻で笑ってやるためにも、服装は正しておかねばならない。

「蔡礼部尚書、および魯礼部官のおなりでございます」

 よしきた、戦闘開始だ!

 私は気に入らない奴にやられたことは倍にして返す主義だ。

 蔡尚書の姿が見え、ニヤリと口角を上げる。

 私を罠にはめたこと後悔させてやらなきゃね。





2006.12.11
修正2007.9.2