「あれ? 影月じゃん」

「あ、さん。お帰りなさい」

 家へ帰るとなぜか影月がいた。

「あら、お帰りなさい」

「お帰りなさいませ、様」

「お帰り、」

「邪魔してるぞ、」

「やあ、帰りが遅かったね。殿」

 上から、秀麗、静蘭、邵可、絳攸、楸瑛。

 何か嫌だな、このお帰りコール。

「た、ただいま」

 とりあえず、荷物を自室に置いてくるか。

 食卓に剣なんかが置いてあったら物騒だし。

 及第してから、街を歩けば破落戸が絡んでくる。

 あくまで破落戸だから大したことはないがうざい。

 いっそ引きこもり、執筆活動してやろーかと思ったが三日で止めた。

 書いているとき時間間隔が麻痺しているので、気づくと徹夜していて秀麗にこっ酷く怒られた。

 自覚ないって怖いなー。

 集中しているから、ご飯だと声かけてくれたのもスルーだし。

 だから、執筆は時間を決めてやっている。

 朝から昼まで書いて、昼からは外をぶらついている。

 たいがい珀明の家にいるか、山で絵を描いている。

 官吏になったら、こんな自由な時間使えないだろーし、今のうちに作品をまとめて書いておこうと思ってる。

 気分も乗っているので筆が進む進む。

 こういうときを逃がしちゃいかんよな。




 荷物を置いて食堂へ戻ると。

「――まったく、本当に何なんだ貴様の弟は!」

「さすが、藍将軍の弟さんですね。進士式すっぽかすなんて後にも先にもないでしょうね」

 龍蓮の話をしていた。

 私に気づいた秀麗がご飯をよそってくれて、席に着き箸を伸ばす。

 今日は餃子か、おいしそーだな。

「あれで全力……」

 引きつる秀麗と目が合う。

「、そう言えばあんたも勉強してなかったわよね」

 あれれ、矛先が龍蓮から私に移動してる?

 恨みがましい視線を送ってくる秀麗に慌てて首を振る。

「いや、違うよ。私は勉強できなかっただけだし」

 そう、龍蓮がべったりだったので勉強なんかできる状態じゃなかったのだ。

 笛を吹こうとすれば話しかけて止めさせ、秀麗たちの勉強の邪魔をしよーならば読んでいないだろう書物を渡し。

 最初は放っておいたのだが、隣室の珀明がキレて責任者が辞表を出し、受験者が次々と精神錯乱になっていって。

 やべ、もしかして私が何とかしなきゃ駄目か?

 泣く泣く勉強時間を割き、龍蓮の相手をした。

 そのおかげで面白い旅の話は聞けたが、さすがに国試落ちるかと思ったよ。

「これで国試に受からなかったら、藍家を心底怨みましたよ」

 ちらりと楸瑛に目を向け、あからさまにため息を吐く。

「す、すまなかったね、殿。特に君には迷惑をかけて……」

 会試が終わった後、強制的に藍邸に行かされた。

 見た事のない書物は読めたし、美しい庭を拝むことができた。

 嬉しいことはいっぱいだったが、久しぶりの龍蓮には疲れさせられた。

 あんなに突飛な奴だったろうか?

 私ったら、よく龍蓮と二年も旅をしてられたなぁ。

 遠い日の自分に拍手を送りたい。

「いいえ。それよりも、特別位彩虹って何ですか?」

 ちょっと調べてみたけど、よく分からなかった。

 何せ、普通成績第一位から第三位までを第一甲として進士及第と言い。

 次の第二甲若干名を進士出身、残りの第三甲を同進士出身と言う学位を与えられる。

 特別位彩虹なんて先王時代に一度あったきりだが、その辺の資料が抜けていて詳細が分からない。

 どうやら、王位争いのとばっちりを受けたようだ。

「そうよね。私もそれが気になっていたの」

「周りの受験者の皆さんも知らないようでしたしねー」

 頷く秀麗と影月。

「絳攸、君は何か知ってるかい?」

「いいや、知らん。の学位の助言は霄太師がしていたようだが……」

 頼みの綱の二人も知らんのかい。

 ふむふむ、関わってんのは霄太師か。

 何か裏がありそうで嫌な感じだな。

「彩虹なら、先王時代に一度あったね」

 のほほんと邵可が口を出す。

「え、父様知ってるの?」

 興味深そうに皆の視線は邵可に集まる。

「うん。その時授かった人はもういないけど、さしずめ下賜の花を渡されたことと同意だったと言うよ」

 さらっと爆弾発言をかまし、辺りはシーンとなる。

「はっ?」

 ちょっと待て。

 何だよ、それ。

 別に私は王に心からの忠誠なんか……じゃなくて。

 これって、すっごいことなんじゃねー?

 分かる人には私が絳攸たちと同じくらい王から信頼されていると思われる。

 ってか、花と違って受け取り拒否できないじゃん。

 頭の中がグルグルと混乱してくる。

 こういうときは。

「嘘だろ――――っ?!」

 とりあえず、叫んどけ。





修正2006.12.11