夕刻――戸部での仕事が終わった後、薔君の墓参りに行った。

 秀麗の手には劉輝から渡された桜の枝。

 私の手には薔君の名に相応しい薔薇の花。

 墓に供えるようなものではないと思うが、彼女に一番に合う花だから。

 もごもごと口の中で言い訳する。

 手を合わせて謝罪して、この十年のことを大雑把に語る。

 貴陽に帰ってきたよ。

 長い間、会いに来なくてごめんなさい。

 皆にたくさん心配かけてすみません。

 これからも、周りに迷惑かけると思うけど、影ながらこっそりと見守っていてください。

 旅の話は次来たときに、詳しく話します。

 珍しく敬語になってしまう。

 自分の中の罪悪感がそうさせるのか……。

 目を閉じ、息を吐く。

 十年という年月は長い。

 とてもじゃないが一日では語り尽くせるものじゃない。

 待ってくれている秀麗たちがいては気になってしまうし。

 今度は一人で来るよ。

 お参りが終わった三人に続いて山を降りるとき、名残惜しくて墓を振り返った。

 何だか、薔君が笑っているように感じたから。





。俺、明日茶州に帰るわ」

 そんな大事なことを燕青はあっさりと言う。

 秀麗たちに話すのは出て行く当日だったので、前もって教えてくれるのは何となく嬉しい。

「そうか」

 私もあっさりと返す。

 知っていたこともあり、衝撃はさほどない。

「俺さー、準試受けることにしたわ」

「そうか。私は中央官吏になる」

「うっわー、そうだよなー。お前、元々そのつもりで貴陽に帰ったんだったよな」

「まあな。お前こそ、やっと決心したのか。次に会うときは茶州州牧が決まるときだな」

 自信家だと笑う燕青に先制パンチ。

 私の言葉に燕青は目を瞬かせて、照れくさそうに頬をかく。

「俺も受かること決定なのかよ」

「悠舜の隣で何年州牧やってきてんだよ。受かって当たり前。むしろ、国試を受けろよな」

「うえっ。相変わらずキツイなー。んー、とりあえず準試頑張るや」

 まあ、正直な話、燕青に国試はまだ無理だ。

 準試がケツから二番目。

 ぎっりぎりの合格だしねー。

「じゃ、頑張れ。皆に宜しく言っといてくれな」

 と、思い出した。

 いつ燕青が帰ってもいいように、持ち歩いていた手紙。

 それを渡し忘れちゃダメじゃん。

「これ、悠舜に渡しといて」

「――悠舜にだけか?」

「悠舜が読んで判断していいよ。ちょっと、これからのことを書いておいただけだし」

 いつの間にか燕青が真剣な顔つきになっている。

 これからのことと言っても、大したことが書いてあるわけではない。

 準試に受かったなら燕青も補佐になるだろう。

 州牧には女人受験生が導入されればその者がなるだろう。

 そのようなことを書いておいた。

 無論、皆は私が未来を知っていることを知らない。

 なので、明確な理由を推測したように書いておく。

 つじつま合わせとかは得意なので、これを読めば納得するだろう。

 一応、自分で読み直してみてもおかしくなかったし。

 後は色々と貴陽についてからの生活の報告もしておいた。

 貴陽に帰るについて、心配してたからなぁ。

 まだ、文の一つも出してない。

 万が一、茶一族の手に渡ったら嫌だから、燕青が来るのを待っていた。

 文代も減るし……。

「燕青、頼むよ」

「ああ、まかせとけ。必ず悠舜に渡す。約束するから安心しとけ」

 鼻息を荒くし、胸を張る燕青。

 何やら、手紙の内容が深刻なものだと勘違いしてないか?

 ま、いーか。

 無事に届けてくれれば。





 翌日、燕青は帰っていった。

 私は戸部の仕事を引き続きやるために見送れなかったが、昨日挨拶しといたからいいだろう。

 もしかして、知っていたのかもしれない。

――って、いつまで戸部の仕事やればいいのさ。

 そろそろ人戻ってきたし、御役御免なんじゃないか?

 臨時の施政官の位だって下げてもいーじゃん。

 ダウンしてた施政官たちも復帰したし。

 あ、でも、私って元から施政官としてやってなかったか?

 施政官たちが倒れる前から……。

 そうすると、そのまま施政官の仕事をやってくのかな。

 このままズルズルと国試に合格するまでやってそうだな。

 あはは……って、シャレになんなくない?





2006.11.19
修正2007.2.15