ようやく見つけた翔琳は、すでに秀麗と一緒にいた。

 私は隣にいる黄尚書を仰ぎ、意見を求める。

「どうします? 私が取りに行きましょうか?」

 こんな街中で仮面を着けていると目立つ。

……素顔も十分目立つけど。

 黄尚書はあれでも、秀麗のことを気に入っている。

 美しすぎる顔のせいで態度が変わったら、百合姫ほどのときではないけどショックだろう。

 紅一族だから可能性(邵可と黎深と私)はあるにしても、ちょっとした賭けになる。

 結果的に秀麗も大丈夫なんだけど、黄尚書は知らないし。

「いい。私も行く」

 仮面を外すと、あまりの美しさに歩く人たちの足が止まる。

 本人煩わしそうに舌打ちなんかするけど、それすらも様になって意味がない。

 ってか、今「も」って言わなかった?

 私が行くことは決定なんですかい。

 仕方なく、その後ろをついて行く。





「――私の家のほうが早い」

 涼やかな美声に、振り返った三人は固まる。

 先に我に返ったのは、もちろん翔琳だ。

「お前は! 怪じ……」

「この少年を助けたかったら黙っていろ」

 じろりと睨むが、やっぱり美人は何しても似合うな。

 でも、ちょっとむかつく。

 さっきから秀麗も燕青も私がいることに気づかないで、ひたすら黄尚書を見ている。

 何かさ、すっげーむなしい。

 ハブられてる感じでつまんない。

 強引だが、主張するように会話の中に割り込んでみるか。

「じゃ、私は軒を……」

「お前はここで待っていろ。私が行ってくる」

 そう言った黄尚書は、燕青とすれ違いざまに何事かを囁く。

 唖然とする様子から、この美人が仮面の黄尚書だと分かったんだろう。

 ざまあみろっと笑い、呆然とする燕青に顔面チョップを食らわせてやる。

「よ、燕青」

「って、! どうしてここに?」

 まさか、こいつが気づかないなんて……。

 そんなに、私存在感薄いか?

 黄尚書が綺麗過ぎる……のは否定できんし。

 悪いのは、燕青だな。

「最初からここにいたぞ」

 笑って今度は一発殴っておく。





 運んだ曜春は葉医師と秀麗とで手当てした。

 幸い軽度の熱中症だったのだが、勘違いした翔琳のために葉医師が機転を利かせて裏手の山に石斛を取りに行かせた。

 くやしいかな。

 その間、私はテキパキと家人たちに指示を出していた。

 そのため、葉医師が黄尚書にセクハラした場面を見逃しちまったよ。

 ちぇっと言いながら、報告のため黄尚書の下に向かう。

「失礼します」

 扉を開けると、黄尚書と燕青との2ショット。



「あ、じゃんか」

 入るタイミング間違ったな。

 ススーっと扉を閉めようとしたが、ガシッと黄尚書に止められた。

「お前、知っていたな」

 もちろん、原作知ってるからね。

――じゃなくて、「降参」と大人しく部屋の中に入る。

「はい。私は貴陽に来る三年前まで茶州で過ごしてましたから」

 このくらい予想できます、なんて匂わす。

 まあ、茶一族がどーゆーもんか知ってるからな。

 フッと遠い目をしてると、燕青がポンと肩を叩いてきた。

 何だよ、と見ると。

「今夜、山場だから頑張ろーな」

 はい?

 それって、私も人数に入ってんのかよ。

「つまり、今夜ここに『団体客』がくるということか」

「え、へへへ。まあ、そういうことです。ここなら多少壊れてもお金持ちだし、警護兵もいるし、広いし、ご主人は口が堅いし、身分高いし偉いし、俺の正体も知れてるし、まさにお客さんをとっつかまえるのにステキに理想なとこだなーって。な、もそー思うだろ」

 私に振ったことで、ますます黄尚書の顔が険しくなった。

「そうですね。私の家では黄尚書も心苦しいでしょうから諦めてくださいね」

 に――っこりと笑顔で燕青に加勢しとく。

「「…………」」

 何故か燕青まで黙りこむが気にしない。

 私の家に団体客が来たならば、黎深が毎日毎日ちくちくねちねち文句言ってくるだろうし。

 第一、家にはまだ未発表の作品がある。

 ね、読書として見過ごせるわけがないでしょ?

「……好きにしろ。ただし、私は手伝わないからな」

「もちろん」

 頷く燕青に私が続ける。

「増援なら戦力として三人来ますから、心配には及びません。秀姉上と曜春をよろしくお願いします」

「燕青の心配はせんが。、手だけは怪我するなよ」

 本が読めなくなるから。

 ぼそぼそっと言うさまは、ちょっと可愛い。

 本当は心配してくれてるみたいだし。

「はい。そんなヘマしません」

 苦笑しながら頷いた。

「……ところで黄尚書、お歳はいくつで?」

「お前よりは年上だ」

 現在、燕青は二十六也。





2006.10.31