|
「鳳珠様、施政官二人が倒れましたよ。どうします?」 春から黄尚書の家で働き、ついに名前呼びができるまで仲良くなりました。 ぶっちゃけ、黄尚書は私の小説のファンだったからっていうのが大きい。 使用人からファン、歳の離れた友人にランクアップ。 距離が短くなった分だけ、扱いがぞんざいに遠慮がなくなった。 まあ、その分対等な感じになったけど。 「高天凱と碧遜子がか?」 「そうですよ」 私も柚梨と同じように、仮面の下の表情が分かってきた。 「浪燕青を臨時の施政官にします?」 「ああ。さっそく用意しろ」 私が言うまでもなく、黄尚書は燕青の正体に気づいていた。 茶州は彼の友人がいるところだし、知らないはずもないが、なぜ今まで使わなかったのだろうか? ――私は遠慮なく使ってるのに。 心の中でちょっと文句を言いながら、言われたものを用意する。 「お前を今から臨時に戸部施政管に加える」 黄尚書の言葉に二人とも唖然とする。 ふふふ、逃げられないぞ燕青君。 鼻歌でも歌いそうな私の表情を見て、「お前が話したのか?!」と燕青が訴えてくるがにこやかに首を振っておく。 「まあ、燕青。頑張れや」 生暖かい目で励ますと、ガバッと首を取られる。 「なら、こいつも……」 「え?! ちょっとやめなさいよ、燕青!」 私を道連れしようとするのを秀麗が止めようとする。 「大体、が……」 「くんはすでに臨時の施政官として働いていますよ」 ニコニコと柚梨が後ろからにゅっと顔を出す。 いくら癒し系でもちょっと怖い。 「えぇー! もう、あんたは何でいつもそういうことを隠すのよ」 ギラッと秀麗の目が光る。 黄尚書の下で働いていたのを話さなかったのを根に持ってるな。 「だって、机案で筆と判子持ちながらやってんだから気づこうよ」 驚かれると傷つくよ。 うぅーと唸る秀麗の頭をポンポンと撫でて宥める。 これじゃあ、どっちが年上だか分からないな。 「さあ、早く仕事を再開しないと終わらなくなるからやろうな」 後ろで睨んでいる怖いお兄さんがいるし。 柚梨と並んで歩いていると、絳攸が前を歩いているのが目に入った。 「李侍郎」 柚梨が呼び止めて、秀麗のことを話し出す。 横で聞いていた私は苦笑する。 黄尚書は気づいているのに、柚梨はまだ気づかない。 その上、絳攸の上司と何か複雑な事情……って、戸部周辺で黎深が出没していることも知らなかったりするのかな? 「くんは受けないんですか?」 急に話を振られ、分からないので素直に首を傾げる。 はっはっは、まったく聞いてなかったよ。 柚梨は優しいので、もう一度繰り返してくれる。 「国試ですよ。せっかく能力があるのに、もったいないですから」 「能力?」 興味深げに尋ねる絳攸に柚梨は頷く。 「くんには臨時の戸部施政官として働いてもらっているのです」 「は? 今、何と……」 思わず絳攸の表情が崩れそうになる。 あれれ、吏部なのに知らないのか? 「人数が足りないので、ほ……黄尚書に頼まれたのです。私は元々黄尚書の邸で財政を任されていたので使えるだろうと判断されたみたいです」 危ない危ない。 危うく鳳珠って言いそうになっちゃったよ。 そうなんだよなぁ。 気づいたら黄家を仕切ってたんだよね。 誰か文句を言うかと待ってたんだけど、家人たちも何も言わないし……。 大変だけど給料上がったから良し!とか思ってたら、次は臨時の施政官だったり。 これまた苦情来るかなぁって期待してたけど来ないし、仕方ないので恙無(つつがな)くやってる。 こんなんで、朝廷もいいのかねぇ。 「黄尚書自ら連れてきたときには驚きましたが、それよりも仕事の速さに正確さ、実に素晴らしいです。李侍郎も十六で国試を受けましたし、くんもどうですか?」 煽てても何も出ないよ? それに、絳攸と比べられてもな。 十六で国試及第って言っても状元だし。 微苦笑する私に、絳攸が眉を寄せる。 「どうした? 許可は貰ってないのか?」 「あ、いえ。貰いましたよ。後見には黄尚書がついてくれるそうです」 「「え、黄尚書が?!」」 ハモる侍郎たち。 二人が驚くのも無理はない。 一番驚いたのはこの私だ! 「はい。ですから、来年も宜しくお願いしますね」 「相変わらずの自信だな」 うん、でも、自信ないやつは国試なんて受けないよ。 貴族のボンボンならまだしも、うちには金がない。 秀麗も受けることだし、この一回が勝負だ。 「ぜひ、戸部に来てくださいね。李侍郎、秀くんもろとも吏部尚書にも頼んでおいてください」 「……どうでしょうね。うちの上司もかなり熱をあげてますから……」 あ、私ここで曲がらなきゃ。 「それでは、私はここで」 一礼して踵を返そうとして気づいた。 絳攸が心なしシューンとしてる。 もしかして、また迷子になってたっけ? しょうがない、助け舟を出しておこう。 丁度、手元に劉輝へ届ける書翰もあることだし。 「景侍郎、これも主上に届けてください」 「ああ、いけません。忘れていました。どうも、ありがとう、くん」 ほわほわと受け取る柚梨を見て絳攸の目が光った。 「主上の元へ行くのですか? 奇遇ですね。実は私もなのです。ご一緒させてください」 いや、君は迷子でしょ? おかしくて顔がニヤけそうになる。 「では、失礼します」 今度こそ二人に背を向けた。 2006.10.23 |