「や、三人とも遅かったね」 片手を上げて声をかけると、三人ともギョッとしながら私を見る。 「な、ななな何であんたがいるのよ?!」 どもりまくる秀麗に、奇人変人の仮面男を指す。 「あの人が働き先の主人」 「で、でも黄尚書の元で働いているとは一言も……」 「そだっけ?」 そう言えば、一度も名を出さなかったかも。 「、指が止まっている。何だ、暇ならこれとそれとあれもやっておけ」 ピシャリとお叱りを受け、机案が埋もれていく。 うわ〜い、やること増えちゃったよ。 後で話す、と口パクで伝え、今は目の前の仕事にかかった。 本を持って帰るのに一人じゃキツイだろうし、迷子になって困ると黄尚書を説得し、秀麗と一緒に頼まれた本を取りに行った。 燕青とは途中で別れて戸部へと戻っていく帰り道、秀麗はまたブツブツと言い出した。 「もう、ったら本当に驚いたんだからね」 拗ねた態度に可愛いなぁと思いつつ、何度目か分からない謝罪をする。 「うん、悪かったよ」 「はあ、もういいわよ。それよりも、お、重い……」 ため息を吐く秀麗は二冊の本を抱えている。 いつもなら、「持つよ」なんて言うが、私も四冊持っているので勘弁してほしい。 「ずいぶん重そうだね。手伝おうか」 涼やかな声とともに、男は秀麗が持っていた本を横からかっさらう。 私としては助かったが、持つのは秀麗のだけかよ。 姪には優しいが甥には優しくないのか……。 「あ、紅……秀といいます。こっちは……」 「紅と申します」 軽く会釈する。 黎深の目が僅かに大きく開き、口が「義姉上」と動く。 音に出なかったため、秀麗は気づいていない。 分かってしまった私は、怪訝そうな表情をしようか素直に気づかないフリでもしておこうか迷う。 ま、気づかないほうが面白そうだしそっちにしておこう。 「ところで秀君に君。突然だが私をどう思う」 うわ、本当に突然だな。 ふき出しそうになるのを懸命に堪え、腹筋に力を入れる。 横を見れば、秀麗の目は点になっている。 「……は?」 「その、好きになれそうだとか、……嫌いになりそうだとか、そういうことでいいのだが」 やたらと咳払いをして、「嫌い」というところで悲しそうな顔をする。 あ、ダメだ。 マジで笑いそう。 「しょ、正直にいってくれて構わない。覚悟はできている」 初対面の男にそんなことを言われ、困惑気味の秀麗は助けを求めるように私を見る。 黎深は私たち二人に聞いているわけだし、仕方ないから私から先に答えよう。 「(変な人だとは思うけど)嫌いではないです。ね、秀もそう思うだろ?」 「へ? そ、そう……ですね。いい人だと思います」 「本当に?!」 「……は、はい。本を運んでいただいてますし」 でも、秀麗。 目が泳いでるよ。 破顔した黎深は上機嫌のまま戸部まで本を運んでくれた。 名残惜しそうに何度も何度も振り返っては手を振って去っていく。 後ろ姿を見送ってから、秀麗は首を捻った。 「ねえ、この暑さでヘンな人が増えてるのかしら?」 「ぶふっ」 思わず吹き出してしまう。 もう、黎深もいなくなったし、笑ってもいいだろうが秀麗に変な目で見られるのは嫌だ。 爽やかな笑顔を瞬時に浮かべ、キッパリと言い放つ。 「あの人は元からだと思うよ」 「そ、そうなの? ねえ、はあの人知ってる?」 「(小説の知識やら何やらで知ってはいるけど)初対面だよ。夏からここで働いていたけど(コソコソこっちを見ていて、いつ話しかけられるのかなと思ってたけど)話すのは初めてだね」 多分、黄尚書から聞いていたんだろうな。 あの二人、友人だし。 働き始めた頃、やたらと視線を感じて不思議に思っていたら、ちょろちょろと黎深が視界に入るようになった。 新手のストーカーかよ! 毒吐きたい気持ちだったが、関わるのがめんどくさそうだったから綺麗に無視しといた。 どうせ、秀麗が来るときに会うだろうし。 思惑通りに会えたし、さてさて、そろそろ真面目に仕事をしますか。 腕捲りをして戸部に入った。 2006.10.21 |