この夏は猛暑で人がバタバタと倒れている。

 私は旅で鍛えていたから問題ないが、朝廷の諸官たちは体力のない文系がほとんどだ。

 暑さにやられてダウンしている。

 このままじゃ、本当に朝廷がストップしちゃいそうだ。

 何で黄尚書の家で働いている私がそんなことを知ってるかというと、原作を知っているから……ではない。

 実は戸部で働いていたりする。

、来い」

 黄尚書に問答無用で連れてこられた先は戸部。

 何故か仕事を手伝わされて、ビシバシと扱かれている。

 黄家で働いているときよりも金がいいので、文句など言えるはずもない。

 約束通りに夕方に帰してくれるし。

 夜遅くまで残業している皆さんには悪いが、私はバイトなんでゴメンよー。

 帰るときの視線が痛いので、仕事をしているときはなるべく真面目にやっている。

 普段の仕事も真面目にやっているが、それ以上に皆の負担を減らせるようにと努めている。

「たっだいまー」

 家に戻るとへとへとだ。

 これじゃあ、満足に勉強もできない。

 な〜んて言い訳はできない。

 秀麗に夕飯を貰って黙々とやんなきゃなぁ。

、おかえりなさい」

「おかえりなさいませ、様」

「邪魔をしているぞ、

「先に頂いているよ、殿」

「お邪魔してまーす」

 そう言えば、今日は夕飯の日だ。

 ずいぶんと賑やか……て。

「何で燕青がいるんだ?」

 お帰りなさいコールが一人多かった。

 グルッと見渡せば、でかい髭もじゃが一匹。

「あー! じゃんかー。もしかして、姉って姫さんのこと? 世の中って狭いなー」

 ハイテンションな燕青に、物語が黄金の約束に入ったことを知る。

 来るのが分かっていたからあれだけど、いきなりはやっぱり驚く。

「あら、とも知り合いなの?」

 静蘭に次いでも知ってるなら安心だわーと笑う秀麗だが。

 約一名、不満とか言うか、不機嫌と言うか……怪訝そうな顔は何だ?

「ちょっと、これ借りてくね。燕青、こっち来て」

「おう、俺もお前に話したいことがあったんだよー」

 話とはもちろん茶州のことだ。

 まだ、誰にも知られるわけにはいかないから、誰も私の部屋に来ないように言っておく。

 秀麗は積もる話でもあるのかと納得し、絳攸たちは特に気にしていない。

 静蘭だけは納得できなさそうだったが、燕青が一言二言喋れば頷き、眉間の皺も取れた。

 さて、後で何て言ったのかとっちめてやろう。





 部屋につくなり、不躾に尋ねる。

「お前がここに来たってことは、何かあったのか?」

 茶州を出たときに、燕青に私の家の地図を渡しておいた。

 貴陽に来ることがあればここに来い。

 そう言って渡した紙通りに燕青は来たのだろう。

 世の中狭いって言いつつも、紅姓を名乗ってたから秀麗と家族だということは感づいていたと思う。

 だけど、静蘭のことは嬉しい誤算だろう。

「うっわー、分かってんのに聞くかー? 俺はこれを届けにやって来たんだよ」

 差し出す袋の中身は見ずとも分かっている。

「茶一族が動き出したんだな」

 この春、茶家当主が死んだ。

 いや、殺された。

 それにより、バカな茶一族がまた活発に動き出したのだろう。

 憶測じゃなく、確信だけど。

「あいつらが無事かどうか聞かないのか?」

 さすがだな、と言う燕青に私は鼻で笑い飛ばす。

「愚問だ。南老師がいるんだろ? なら、問題ない」

 キッパリと断言する。

 彼の姿を見たことはないが、腕なら知っている。

 あんな化け物相手に茶家なんかが手出しできるとは思えない。

「お前は運がいい。主上なら、近いうちに会える。寝台に忍び込むような真似はするなよ」

「へええ。分かった、大人しくしてるわ」

 お互いの情報交換をしていると邵可が帰ってきた。

 まだ、ご飯を食べていない私はお腹が空いてたまらない。

 一旦話を打ち切ると、食卓へと向かった。





 邵可はあっさりと燕青を笑顔で迎え入れた。

 まあ、静蘭と私の知り合いだし。

 茶州州牧ってことは知ってるのかな?

 年齢は見抜いていたみたいだけど。

 話は弾んで、原作通りに進んでいく。

「――秀麗と

「はい? なんですか、絳攸様。おかわりですか?」

「……じゃ、もう一膳頼む。それと、ちょっと頼みたいことがあるんだが……」

 チラリと私にも目を向ける。

 女人試験導入のことなんだから、必要なのは秀麗だけじゃないのか?

 そう思いつつも律儀に尋ねる。

「何ですか?」

「ひと月ほど朝廷で働く気はないか。後宮じゃない――外朝で」

 絳攸の言葉に秀麗の目がキラリと輝く。

「やります!」

 話の内容を聞かずに即決する。

 そんなんで、いいのかねぇ。

 聞いてもやるだろうから、何も言わないけどさ。

「で、何をやればいいんですか?」

「戸部尚書の雑用係だ」

「こ、戸部尚書の雑用係!?」

 飛び上がる秀麗は見ていると面白い。

 だけど、話の流れ的に私もやることになってないか?

 その間に話は進んでいく。

 しまった、これじゃ割り込めない。

 大人しく終わるまで待ってるか。

「心配するな。女とは絶対気づかれない」

 絳攸って何気に酷いなぁ。

 思ってても言わないほうがいいよ。

 秀麗へこんでるし、結局黄尚書にバレてるし。

「あの、絳兄上。私は(すでにその仕事をしているので)無理です」

「ええっ! ちょっとどーしてよ?」

 絳攸が聞く前に、秀麗に胸元を掴まれてシェイクされた。

 あの、いや、ちょっと秀麗さん。

 それじゃあ、答えられないんですけど。

「姫さん、ストーップ! それじゃあ、が話せないだろ」

 ナイス、燕青!

 おかげで助かったぜぃ。

「今、働いているところの主人が人使い荒いし(そもそも戸部尚書が旦那様で)、(改めて)絳兄上の頼みとはいえ(もうやってるし、頼まれることは)できないです」

「そうか、それなら仕方ないな」

「そうねぇ、それなら仕方ないわ。一緒にお仕事できると思ったんだけど……。ちゃんと特別手当もらうのよ」

 あっさりと絳攸は納得して、ちゃっかり秀麗は金の心配をする。

「大丈夫。きちんと上乗せしてもらったから」

 爽やかに言う私に静蘭は拍手を送った。



2006.10.17