<帰ってきたよ>

 さわさわと木々たちが告げてくる。

 さくさく書き殴っていた手を止め、背伸びをしながら首を回す。

 偶然にも、今日は仕事が休みの日だった。

 一日中小説を書きつつ、勉強(普通は逆か?)をして秀麗が帰ってくるのを待っていた。

 私が貴陽に戻ってきたのを知ってから、邵可がちょくちょくと邸に帰ってくるようになった。

 そのおかげで、秀麗たちが帰ってくる日を知ることができたのだ。

「お帰り」

「あ――――! !!」

 ビシッと私を指差し叫ぶ。

 徹夜した頭にはちょっとキツイが、やっと会えた嬉しさで気にならない。

「ん、秀姉上、静蘭久しぶり。今、茶の用意を……」

 あふぅっと欠伸をしたら、頭を叩(はた)かれた。

 いてっ、何すんだ。

「あんたは、さんざん人に心配かけて〜。元気かと思えば、何よ、その死にそうな顔はっ! お茶は私が入れるから、父様たちと座ってなさい」

 あっという間に台所へ消えていく秀麗を見送っていると、肩をポンと叩かれる。

 嫌な予感。

 振り返ると、やっぱり静蘭。

様、よくお戻りになられました。無事で何より……と言いたいところですが、分かってますよね? 私の言いたいことは」

 素晴らしいほどこわ〜い笑顔を向けてくる。

 これは逆らわないほうがいいね。

「うん、心配かけて悪かったよ。お説教なら、甘んじて受けるよ」

 まあ、覚悟はしてたからね。

 静蘭にズルズルと引きずられて行き、秀麗がお茶と饅頭を持ってくるまでネチネチと怒られた。





「で、は今までどこにいたの?」

「彩雲国中を回ってきたよ。一応文出してたけど、届いてた?」

 まあ、足がつかないように気を回してたけど。

様、一年に一回では出していたとは言いません。八年前、先王が倒れて王位争いが終息に向かうまでもきていませんでしたし」

「君の安否が分からなくてね、どれだけ途方にくれたか……」

 相変わらず静蘭は厳しいなぁ。

 ちぇっと口を尖らせる。

「しょうがないじゃん。貴陽が荒れていて、手紙を出せない状況だったんだから」

 貴陽よりも、他州のほうがマシだった。

 とくに、紅藍両家は。

「そうだとしても、帰ってくるときくらいは文を出しなさい」

 あー、また怒られるのは嫌だし、多少不自然でも話題転換しよう。

「それよりも、秀姉上。結婚生活はどうでしたか?」

 私の発言に秀麗と静蘭が盛大に茶を噴き出す。

「な、ななななな……」

様、どうしてそれを?」

 言葉にならない秀麗の代わりに静蘭が聞いてくる。

 ふふ、愚問だね。

 余裕たっぷりにお茶を一飲みしてから平然と言ってのけた。

「父様に聞いたけど、何か問題でもある?」

 私の言葉に秀麗は弾かれたように邵可を見る。

「いやー、に問い詰められちゃってね」

 キョドキョドしながら困り顔の邵可だが、秀麗には効かない。

「と――――様!! だけには知られたくなかったのにぃー!!」

 あのねあのね、フリなのよ。

 本当に、何もしてないからね。

 必死で言ってくる秀麗に、でも、と私は言いにくそうに下を向く。

「相手がね、男色家で仕事をしないって聞いてね、心配したんだよ。私としては、そんな人を嘘でも義兄上なんて呼びたくないし」

 ダメージを受けたのは、秀麗よりも静蘭だ。

 実の弟をそんな風に言われて、かの清苑公子が黙ってない。

 だけど、説教のお返しだよ。

 静蘭には悪いけど、心の中で舌を出す。

「相手の名は聞いてないのですか?」

 頬を大分引きつらせている静蘭に、聖母のような穢れの無い微笑を向ける。

「紫劉輝って主上と同じ名前だね」

「そ、そうねー。同じ名なんて偶然って恐ろしいわね、ホホホ。」

 秀麗の目泳ぎまくってる。

 ここまできてしらばっくれるのか。

 どうせなら、ちゃんと言ってほしかったな。

「あー、秀麗。はちゃんと知ってるから」

 邵可の一言に、秀麗はぐったりと肩を落とす。

「うん。二人とも死に掛けたってコトもね」

 さらりと言って、パクリと饅頭にかぶりつく。

 あ、おいしひ。

 絶句する二人をちらりと見て。

「無事みたいだから安心したよ」

 とくに、静蘭。

 秀麗も危なかったが、静蘭のほうがやっかいだったし。

「ごめんね、。黙っていて……」

 申し訳なさそうにうな垂れる秀麗に空気が重くなっていく。

 せっかく、十年ぶりに家族揃ったのに意地悪が過ぎたかな?

「そうだ、久しぶりに秀姉上の二胡が聞きたいな」

 私のリクエストに秀麗はパッと顔を上げた。

「ダメ?」

 小首を傾げて可愛らしくおねだりをしてみる。

 十五の男がやってもねぇって感じだが、秀麗にとって私は可愛い可愛い弟なのだ。

 昔から私に甘いのは変わってないと思う。

 予想通り、秀麗は気合を入れて二胡を弾いてくれた。

 思わず口元が緩んだのは、子どものころ私がせがんだ曲ばかりだったからだ。

 皆で秀麗の二胡を楽しんで、この再会の日を楽しんだ。

 やっぱり、家族っていいな。





2006.10.13
修正2007.9.2