「えぇっ!! が帰ってきているの?」 秀麗は思わず食べていた饅頭を取り落として邵可に詰め寄る。 がくがくと胸元を掴み、上下に振られた邵可だが静蘭が必死で止めてくれたのでちょっと気持ち悪いくらいですんだ。 「う、うん。数日前からいたらしいよ」 「嘘ーっ?! それなら、こんな仕事引き受けるんじゃなかったわ。きっと今頃ひもじい思いをして泣いているんだわ。『姉様〜、お腹減ったよぅ』って!」 十年前に突然家を出て行ってしまった弟。 実際、一つしか変わらないのだが、秀麗の中ではあの頃のままだ。 母親に似ていて女の自分以上に可愛らしい弟は守るべき対象。 近所の悪ガキどもが弟にちょっかい出したときは、静蘭を引き連れて倒してきた。 「秀麗がしばらく帰ってこないことを話したら残念がってたよ。あ、からお土産を頼まれてたんだ。ほら、静蘭の分もある」 「あら、何かしら?」 「私の分もあるのですか? ありがとうございます」 邵可から渡された包みを丁寧に素早く外していく。 出てきたのは、細工が見事な簪と短刀。 「な、なななな何これ――――っ!」 秀麗は思わず叫んだ。 「これ、相当高いものじゃない。そりゃあ、綺麗だけど……本当に私にこれを?」 小さい頃からあちらこちらで仕事をしてきた秀麗の目は肥えている。 一見質素に見える簪だが、よくよく目を凝らせば細部に至るまで美しい模様が描かれている。 紅貴妃として使っている簪に勝るほどの一級品。 これを売り飛ばしたら……思わず考えてしまい、慌てて首を横に振った。 大切な弟からの贈り物だ。 一生の宝物にして、大事に使おうと心に決める。 最も、使う機会があるとしたら、だ。 一方、静蘭も驚いていた。 柄が握りやすく、しっくりと手に馴染む。 手にかけた鞘には見事な桜の花弁が舞っている。 その鞘の下には、想像以上に美しい白刃があった。 手を這わせてなぞってみると、パックリと指に赤い線が走る。 鋭い切れ味に小さいながらも殺傷能力は高い。 これで刃が長い剣ならば、王家の宝剣にも劣らないことだっただろう。 「静蘭には短刀ね。こ、これも見事だけど高いわね。父様のお土産は何だったの?」 「私にはこの湯呑みなんだ。どうだい? が作ってくれたんだよ」 手作りと聞いて秀麗の目が光る。 「ずるーい! 私もが作ったもの欲しいわ」 だんだんと床を叩き、悔しそうに邵可の湯呑みを見る。 邵可の顔は緩み、ちょっと誇らしげだ。 眉を寄せて不機嫌な秀麗だったが、湯呑みを改めて見てギョッとした。 「あの子って陶芸の才能あるのかしら?」 「どうしたのですか、お嬢様」 「こ、この湯呑みに似たものを後宮で見たことあるのよ。素人の私から見ても良かったから、出所を聞いてみると、かの有名な陶芸家碧田山の弟子の作品だと言っていたの」 ごくりと三人とも唾を飲む。 「まさか、ね。ホホホ、そんなことあるわけないわよね」 引きつった笑いに二人とも黙り込む。 (うーん、は昔から器用だったし、彩雲国中を回ったって言ってたし……) (で、弟子なら十年二十年は師についているもの。まさか、年齢は合わないが様だし……) しかし、三人とも気づかなかった。 三つのものに共通していることがあることに。 湯呑みは底の裏に、簪は髪に挿す部分に、短刀は刃の根元に、と全てに同じ名前が印されていた。 湯呑みだけが手作りではなく、お土産全てが手作りだったことに気づくのは随分後のことになる。 2006.10.5 |