ビバ旦那様!

 伝言のおかげで邵可パパンが帰ってきました。

「お帰り」

 私はずずっっとお茶を飲み、たっぷりとタレがかかった団子を頬張る。

 あ、これ美味い。

 扉を開けて無言で立ち尽くす邵可に目を向けて団子を勧める。

「食べる? んじゃ、お茶の用意でも……」

 立ち上がった私だが、重りがついて動けない。

 下を見ると、腰にへばりつく邵可。

……ちょっとかわいいかも。

、本当になんだね」

 呟く言葉が胸に突き刺さった。

 勝手に家を飛び出して、突然帰ってきた私。

 忘れられてたら……なんて考えていたのが馬鹿みたいだ。

「き、君が突然家を出て行ってから、私は心配で心配で夜も眠れなくて。でも、良かったよ。が帰ってきて」

 顔を上げた邵可は泣いていた。

 嫌だなぁ。

 邵可が泣くのを見るはこれで二度目だ。

 薔君が死んだ、あの嵐の夜……。

「あれれ、おかしいね。嬉しいのに涙が出てくるよ」

 涙を擦り、笑顔を作る。

「『お帰り』

「『ただいま』父上」

 しんみりするのは苦手だ。

 だから、私はここにいない秀麗たちのことを投げかける。

「ところで、秀姉上と静蘭はどうしたんですか?」

 ぴしっ。

 音を立てて固まる。

 面白いから追い討ちでもかけてみるか。

「秀姉上の性格からして、結婚したなんてないよね? 静蘭もこの家を出て行くタイプではないし」

 にーーっこりと笑顔で言い切る。

 さあさあ、どう出る?

 薔君似の私に嘘を吐いちゃう?

「え、え〜と……あのね。秀麗は長期アルバイトに……」

 しどろもどろ、当たり障りの無い返答を返すが甘い。

「――で?」

 にこにこにこ。

 詳しく話せや!と促す。

「――うっ。せ、静蘭はそれに付き添って……」

 へえ、本当のことは話してくれないんだー。

 仲間外れは嫌いなんだよね。

「そうなんだ。ところで、本当のところはどうなの?」

 にこにこにこにこにこにこー。

 笑顔で迫ると、うっと言葉に詰まり、項垂れる。

 よっしゃー、勝ったー!

「しゅ、主上の教育係として後宮に入って……。静蘭は左羽林軍に」

「じゃあ、秀姉上は暫く帰ってこないね。静蘭もそっちにいそうだし、しょうがないなぁ」

 お土産は邵可に預けて渡してもらおうかな?

 ビクビクこちらを伺うように見る視線が犬を思わせる。

 ちょっと虐めすぎたかな?

「とりあえず、放してくれない? お茶入れるから」

 そう言えばパッと放して、大人しく座る。

 溢さないようにお茶を注ぐ湯飲みは、邵可へのお土産の奴。

「はい、どーぞ。ついでに、その湯飲みはお土産だよ」

「ありがとう。素晴らしい湯飲みだね。これは名のある人の作品じゃ……」

 全く、お世辞が上手いなぁ。

「私が作ったものだから」

 名があるなんて大げさな。

「え?! の手作りの物なの? この出来栄え素晴らしいね」

 ゆるゆると邵可の顔が緩んでいく。

 どんな出来であろうと、子どもが作ってくれるものは嬉しいのだろう。

 喜んでくれたことにホッとする。

「秀姉上と静蘭へのお土産、渡しておいてね。後宮に男は入れないし、静蘭は秀姉上の傍にいたほうがいいし。当分会えそうにないしね」

、君……」

「だって、知らないところに放り込まれたら寂しいでしょ? その点、静蘭が居れば大安心」

 ね、っと邵可に振れば慌てて頷く。

「そうだね。には寂しい思いをさせてしまうけど……」

「父上も気にしないで。寂しいって言うよりも、今は忙しいってことのほうが強いから」

 キョトンと首を傾げる邵可。

「忙しい?」

「うん。ちゃーんと、職にはありつけたし、読みたい本もあるし、やりたいことは山のようにあってね。てんてこ舞いって感じなんだ」

 グッと拳を振るって熱弁する。

 そう、私には使命がある。

 旅をして、様々なことを体験してたくさんのネタを集めた。

 一応旅先でちょこちょこ書いていたが、本格的に書くときがきたようだ。

 私は書くことが三度の飯よりも好きである。

 だが、旅先では思うように執筆活動はできなかった。

 この溢れんばかりの思いを文章にしたい!

 異様な熱意を感じたのか、邵可が一歩引いている。

 失礼な!

 文句を言う代わりに、口の中に団子を突っ込んだ。

 久しぶりに会った父とのんびりと過ごす。

 それってけっこういいのかもしれない。



2006.10.1