「茶州へ行くことになったの」

 胸を張り、大好きな幼馴染に報告する。

「私、茶州州牧に任命されたの」

 顔を上げていつものように笑う。

 寂しいなんて思っちゃ駄目だ。

 離れるのが嫌だ何て思っちゃ駄目だ。

 念願の官吏になれたのだから、そんな些細なことなんて思ってはいけない。

 いけないんだ。

 グッと拳を握り締めた手に爪が食い込む。

「作り笑いなんかすんなよ」

 クシャリと秀麗の頭を撫でる。

 子どもを宥めるような優しい触れ方。

「寂しいときは寂しいって言えばいいんだ」

 分かってるから、と呟く。

 に隠し事はできない。

 嘘をついてもすぐにバレてしまう。

 困ったときは相談に乗ってくれ、話すだけですっきりした。

、ちょっとだけ、ちょっとだけね、寂しいの。だって、会えなくなるじゃない」

 こんな弱気な私は私らしくない。

 そうは思うけど、理性と感情は違うらしい。

「茶州と貴陽は遠すぎるわ」

 昔のように……とまではいかないが、とよく一緒にいれた。

 会える、という意味ではないが、文のやり取りをし始めて一緒にいられる以上のものを得た。

 落ち込んでいるときにの文に励まされ、まだまだ負けるもんかと元気になれた。

「そうか? 俺はそうは思わんぞ」

「え?」

 意味が分からず、を見上げる。

「秀麗は茶州州牧になるんだろ? 活躍すればするほど貴陽に届く。俺は楽しみだけどな」

 念願の官吏になった秀麗がどうするか。

 その言葉に秀麗はハッとなる。

「それに今まで通り、文はくれるんだろ? 何か困ったことがあれば飛んでくさ」



 目頭が熱い。

 泣きそうになる秀麗に、はさらに言葉を紡ぐ。

「邵可さんのことも心配すんな。俺もときどき会いに行くさ。病気にでもなったら治してやる。お前は心配せずに、やるべきことをやれ」



 ああ、やっぱりかっこいいな。

 は欲しい言葉ばかりくれる。

 どうして、こんなに自分のことを分かってくれるのか。

 茶州へ行く中に、静蘭の名も挙がり喜んだ。

 一人じゃないことを嬉しく思ったが、父様のことが気がかりだった。

 あのボロボロだけど広い邸に一人にさせてしまう。

 胸が痛んだ。

 料理もまともに作れず、のんびり屋の父様は一人で生活できるのか。

 激しく不安である。

 しかし、がときどきであるが見に行ってくれるらしい。

 悩みの種が一つ減った。

「ほらほら、泣くな。秀麗の活躍期待してるから頑張ってこいよ」

 いつの間にか泣いていたのだろう。

 秀麗の顔をがグイグイと自分の袖で拭ってくれた。

 頑張ってこい。

 誰の言葉よりもの言葉が胸に響く。

 うん、まだまだいけるわ!

 がいるから頑張れる。

、私やれることをやってくる」

 キッと顔を上げる秀麗に、もう迷いはなかった。

 何か吹っ切れた様子の秀麗には微笑む。

「ああ、行ってこい」

 の言葉に背中を押され、決意を新たに家へと戻る。





「お嬢様、やけに嬉しそうですが何かありましたか?」

「え? べ、別に何もないわよ。嫌だわ、静蘭ったら。ホホホ」

 お茶を入れてくる、と慌てて席を立つ。

「うーん、どうやら君のことで良いことがあったみたいだね」

「……ですね」

 認めたくない事実に、静蘭は軽く舌打ちをする。

 秀麗にまとわりつく男の中で、一番手に負えなかったのがだ。

 何故なら、は静蘭の妨害に屈しない。

 静蘭がいない隙に現れる慶張とは、また違ったタイプでやりにくい。

 何より、は秀麗のことが好きなのかいまいち分からない。

 好意があることは知っている。

 それが友愛なのか情愛なのかがハッキリしない。

 ハッキリしているのは秀麗の気持ちだ。

 本人は隠しているようだが、静蘭や邵可にはバレバレである。

「ちょっと落ち込んでいたみたいだから、元気になって良かったね」

 にこにこと笑う邵可はご機嫌に饅頭を頬張る。

 確かに、そのことについて同意はするが釈然としない。

 自分の役目をに取られているようで気に入らない。

 幸い茶州と貴陽は遠いから、しばらくは安心して過ごせる。

――については。

 ふふふふふ。

 思わず笑いそうになり、慌てて顔を引き締める。

 秀麗がお茶を持ち、戻ってきたのだ。

 どうやら、怪しげな笑いを見られずに済んだ。

 ホッと胸を撫で下ろす静蘭は知らない。

 微笑ましげに邵可が見ていたことを……。





再UP2007.9.13