パソコンの前に座ったは、頭をフル活動させる。

 視線は画面に釘付けで微動だにしない。

 右手のマウスを動かし、目標を定めてクリック。

 さあ、どう出る?

 わくわくしながら打った手は、我ながらいい出来だ。

 数分の間をおいて、相手は予想通り投了してきた。

 体を背もたれにかけ、両手を伸ばし、グッと伸びをする。

 窓に目をやると薄暗い。

 そろそろ姉も帰ってくるだろう。

 パソコンを終了させてから、携帯に目をやるとメールが一件入っている。

 姉からだ。

 時間を確認すると、メールは三十分前にはきていた。

 囲碁に夢中で気づかなかった。

「また、やっちゃいましたか」

 は携帯の電源を切っていたわけではない。

 無論、マナーモードにしていたわけでもなく、音を消していたわけでもない。

 ネット碁に集中しすぎていて、着信音が耳に入らなかったのだ。

 ため息混じりに文章に目を通していると。

「ただいまー」

 姉が帰ってきたようだ。

「お邪魔します」

 次いで誰かの声。

「えっ?」

 携帯から顔を上げ、目を見開く。

 嘘だ。

 固まるの耳に階段を駆け上がる足音が届く。

、『お帰り』は?」

 勢いよくドアが開かれ、ショートヘアーの活発そうな少女が入ってくる。

「あ、お帰りなさい、姉さん」

「うん、ただいま。ご飯、出前取るから下にいてね」

「で、でも……」

 口ごもるに姉は首を傾げる。

「あたし着替えちゃうから先に行ってなよ」

 背中を押され、渋々部屋を出て行く。

 先ほどのメールの内容は、友達が泊まりに来るから、というものだった。

 まさか、男が泊まりにくるわけもない。

 来るとしたら、同じ学校の女友達だろう。

 ゴクリと喉が鳴る。

 先日会った奈瀬も姉と同じ学校。

 もしかしたら……と、淡い期待を抱いてしまう。

 期待?

 何で期待なんかしてるんだ?

 わけの分からないもやもやした気を晴らすように、着流しの襟を正した。





 久しぶりの親友の家に胸がドキドキする。

 少し来ない間に、インテリアが変わったようだ。

 前よりも温かみがあり、こっちのほうが好みだ。

 そう言えば、親友も少し様子が変わった。

 見たこともない従弟が家族に加わったからだろうか?

 来る前は複雑そうな顔をしていたが、来てみれば正反対の顔をしている。

 可愛くて可愛くて仕方がない。

 そんな惚気を聞かされた。

 元々母子家庭で母親が看護士で忙しく、家で一人で過ごす時間が長かった。

 口には出していなかったが、寂しかったんだと思う。

 だけど、新しい家族ができて少しは満たされたんだと思う。

 確か、弟は二つ離れているといっていたから中二。

 難しい年頃な気がするのだが、上手くいっているようだからよかった。

 ガチャリ。

 ノブを回す音が聞こえて、慌てて立ち上がる。

 軽く身だしなみを整えてから足を揃え、現れた人影に軽く頭を下げる。

「お邪魔してま……」

「……奈瀬さん?」

 遮られたその声は聞き覚えがある。

 顔を上げて確かめてみるとビックリその人だ。

さん?!」

 スラッとした長身に見忘れる事のない端整な顔立ち。

 大人っぽい人だとは思っていたが、和服というのが反則だ。

 学ランよりもしっくりきていて、の魅力を十分に引き出している。

 奈瀬も囲碁をやっている中で、和服を着ている人を見るが断然違う。

 そこで、ハッとする。

 彼はで、親友も

 これは名前を聞いたときから引っかかっていた。

 お父さん……そう言うには若すぎる。

 第一彼女にお父さんはいない。

 再婚の話も聞いていないし却下。

 お兄さん……いい線はいっていると思う。

 だけど、小さい頃から知っているが兄がいるとは聞いたことがない。

 おばさんに似ているとは思うが却下。

 残されている選択肢は一つ。

 おばさんに似ているのは、それで納得できる。

 いや、でも信じられない。

「お、弟……くん、なの?」

 裏返りそうになる声を必死に殺しながらで聞くと、はあっさりと頷いてくれた。

「嘘でしょ――――――!!」





 後に姉は「縁があるみたいだから、いつか付き合うんじゃないかと思ってたわ」と語る。





2007.1.16