中国を出てから半年。

 も日本の生活に慣れてきた。

 驚くことに引き取ってくれた叔母は、本当にを養子にしてしまった。

 林だった名もに変わり。

 苗字が日本名になったため、名前の発音も日本のものになった。

 その叔母には一人娘がいる。

 よりも二つ上で、従兄妹でもある彼女は姉になった。

 姉さん。

 そう呼ぶのが始めは気恥ずかしかった。

 看護師である叔母とは滅多に会わないので、自然とこの姉と過ごす時間が多い。

 中国で過ごし、碁漬けだったは勉強が苦手である。

 事情を知った姉が勉強を見てくれ、そこから二人は仲良くなっていった。

 今日、姉の帰りが遅いのでのご飯はインスタントものだ。

 学校帰りにコンビニに寄り、何か食べ物を買って帰る予定だ。

 制服のままであるが、は長身のため十分高校生に見える。

 補足として、私服だったらもっと上に見られたりする。

 何を食べようかと思い、コンビニに入ろうとして。

「もう! しつこいわね」

 苛立ち混じる声に振り向くと、三人の男が少女にしつこく言い寄っていた。

「いーだろ? 一緒にあそぼーぜ」

「ちょっとでいーからさぁ」

「カラオケとかどーよ」

 迷惑そうに眉を寄せる少女は本気で嫌がっているのだろう。

 助けに入ったほうがいいのだろうか?

 が悩んでいると少女の制服が目に付く。

 あの制服は姉のものと同じである。

 もしここで動かなければ、姉の制服を見るたびに自己嫌悪に陥るだろう。

 腹を決めたは少女に向かって歩き出す。





「すみませんが、自分の彼女に何か用ですか?」

 少女の手首を取り、自分の下へと引き寄せる。

「ああ?」

「何だと!」

「テメー……」

 何か言おうと口を開いた男たちは、の姿を見たとたん黙り込む。

 一人はすでに逃げ腰になっている。

 自分たちよりも背が高く、顔が整ったが見下ろすように睨んでくる。

 大して度胸がない男たちは完全にビビッていた。

「用がないのでしたら、失礼しますね。それでは、行きましょう」

 少女の返事など聞かずに男たちから離れて歩いていく。

 念のため、追ってこれないように人ごみに紛れる。

 数分ほど経ってから後ろを確認すると、後を追ってきてはいないようだ。

「あのー、手……」

 言われてみて気がついた。

 彼女の手を握りっぱなしだった。

「すみません」

 パッと少女の手を離し、慌てて謝罪する。

「い、いいえ。助けてくれて、ありがとうございます。あの人たち、しつこくて困ってたんです」

「自分こそ、手を繋いだままこんなところまで連れてきてしまいましてすみませんでした」

「え、大丈夫です。この辺詳しいので」

 にっこり花が綻ぶように笑う。

 あらためて見ると、少女は綺麗で可愛い。

 健康的に焼けた肌に、肩まで伸びたストレートの髪。

 目もパッチリしてスタイルがいい。

 何よりスカートから覗く足が美しい。

 不覚にも自分の描く理想の女性にピッタリだ。

 そんな不謹慎な考えが過ぎり、あのナンパ男たちと同じではないかと首を振る。

「そ、それでは、自分はこの辺で失礼します」

 ペコリと一礼して早足で去る。

「あ」

 残された少女は残念そうにポツリと零す。

「名前聞くの忘れちゃったな」





 これが、と奈瀬の出会いだった。





2006.12.18